眠れない夜は、きみの声が聴きたくて
「手、離してよ」
「え、あ、悪い」
市川はずっと仏頂面で機嫌が悪い。というか、明らかに警戒されまくっている。
それもそのはずだ。接点なんてなかった彼女のことをこうして同じ部活へと引き入れてしまった。
市川のことはクラスが一緒になる前から気になっていた。
男子に比べて感情のコントロールが器用な女子の中で、彼女は誰になにを思われててもいいという開き直りが見てとれる。
だから正直に言うと市川はかなり感じが悪い女子として有名だ。でも俺は逆にそういうところがすごいと思っていて興味を惹かれた。
普段なにを考えているのか。好きな食べ物はなんなのか。どういうことで笑ったりするのか。小さなことでもいいから彼女のことを知りたいと思っていた。
「なんで三浦は写真部に入ったの?」
「え?」
「だって、もっと人がたくさんいる部活に入る人でしょ」
たしかにサッカー部や野球部。一番人気のバスケ部にも誘われていた。
色んな人になんの部活に入るのか聞かれたけれど、人が集まることを避けるために写真部に入ることは入部届の期限である日まで隠し通してきた。
「写真部に入った大きな理由はとくにないよ。目立たなそうな部活ならなんだってよかったし」
「自分はいるだけで目立ってるのに?」
「俺、そんなに目立ってる?」
「うん。うるさいなって思うところにはだいたい三浦がいる」
「俺はうるさくしてないだろ?」
「でも騒がしくしてる要因ではあるよ」
「ごめんなさい。気をつけます」
市川は納得したように頷いていた。無口な子かと思っていたけれど、こうして静かな場所でなら会話のキャッチボールをしてくれるようだ。