眠れない夜は、きみの声が聴きたくて
私はきっと、人と群れるのが得意ではない。
けれど弾かれてはいけないという危機管理能力だけは立派に育っている。
はあ……と深いため息をついたところで、【ごめん。仕事が終わりそうにないから未央のお迎えお願いできる?】と、お母さんから連絡がきた。
未央とは、二歳になる私の妹だ。そういえば今日は預かり保育だって言ってた気がする。
母は育児休暇を経て、この四月からウェブデザインの仕事に復帰した。自宅のパソコンを使ってできる作業とはいえ、すぐさま締め切りに追われる生活となり、こうして妹の世話を任されることも増えていた。
母から連絡していたこともあって迎えはスムーズに行うことができた。なのに未央は園を出てからずっとふて腐れたままだ。
「お迎え、ねーねじゃなくて、お母しゃんがよかった……」
さっきから同じ言葉を繰り返して、鼻をぐすんと啜っている。
「私もそうしたかったけど仕方ないでしょ」
「お母しゃんのこと待ってたのに」
まだ辿々しい部分があるとはいえ、いつの間にこんなに意思表示をするようになったんだろう。
髪の毛も結べるほどの長さになってるし、身長も少し伸びてる。これじゃ、桜も見逃すはずだ。同じ家に住んでる妹の成長すら気づけていないのだから。
「あ、見て! ちょーちょーがいるよ!」
未央は拗ねていた表情を変えて、飛んでいる蝶々に夢中になっていた。その切り替えの早さが羨ましいと感じながら、またスマホが鳴っていた。
画面を見ると、知らない十一桁の番号からの着信だ。
……誰だろう。ぼんやりと眺めているうちに電話は切れてしまった。