眠れない夜は、きみの声が聴きたくて


「だって夜しかウォーキングする時間ないんだもん」

「とりあえず虫が多いからあっち行くぞ」

「はーい」

人一倍、体型に気をつけている早坂はモデルになることを夢見ている。最近だと顔を広めるために、自分のチャンネルを作ってメイク動画なども上げているらしい。

わりと高評価のようで、早坂の動画を楽しみにしてるファンもいるらしいけれど、俺は固く止められているので見たことがない。

画面の向こうにいる大勢の人に配信してるくせに、俺にはメイクをする前のスッピンを見られたくないそうだ。

ろくに整備もされていない道を早坂と歩く。リンリン、ガーガー、ゲコゲコ。田舎の夜は人がいない代わりに生き物たちの声がうるさく鳴いていた。

「母さんが飯の時、最近環ちゃんうちに来ないねって言ってたぞ」

「えー本当に?」

早坂の家は俺の家と一本道で繋がっていて、簡単に言えばご近所さんだ。

引っ越してきた当初はそれなりに不安もあって、よそよそしい態度をされることは覚悟していた。

けれど、彼女だけは挨拶がてらに町のことをたくさん話してくれて、母さんとも連絡交換するほど仲良しになってくれた。

「まあ、でも早坂がうちに出入りしてると学校のやつらがやっかむからな」

色恋事に興味があるのはどこでも同じだけど、この町ではとくに情報が早く回る。男女関係ともなれば、それはもう風よりも早く。

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