眠れない夜は、きみの声が聴きたくて
二回目のまた明日
あの頃の私は失敗ばっかりだったけれど、自分の気持ちには正直でいた気がする。
人の顔色ばかりを窺って、言葉を押し込めるだけの今を十四歳の私が見たらなんて言うだろうか。
『大嫌い』
大丈夫。私も今の私が心底嫌いだよ。
「うわああん、やだやだ……っ!」
スマホのアラームよりも先に、未央の泣き声で目が覚めた。部屋の真下にあるリビングからドタバタと激しい音がする。私はため息をつきながら、ゆっくりと起き上がった。
「ほら、未央! お母さんはお仕事があるんだからあんまりワガママ言わないでちょうだいよ」
「やだやだやだ!!」
お母さんは泣きわめく未央のことを抱き上げて、必死であやしていた。これは俗に言うイヤイヤ期というやつだ。
ご飯も嫌、お風呂も嫌、手を洗うのもお気に入りのオモチャで遊ぶのも嫌。目に入るものすべてが嫌。
私にもこんな時期があったのかな。
周りの迷惑も考えずに泣けるなんて、少し羨ましくも思う。だって私はもうそんなこと許される歳じゃない。
「響、ごめん。朝ご飯はそこにあるパンを焼いて食べて。冷蔵庫に卵もウインナーもあるから」
「うん、平気。自分でやるよ」
「あと悪いんだけど今日も早めに帰ってきてね。夕方から仕事の人と電話打ち合わせがあるのよ」
「わかった」
お母さんにとって私は子供だけど、大人として扱われている。
今思えば子供扱いされていた時に、話せばよかったと思う。
妹ができることへの不安とか、お父さんのことをどうやってお父さんと思えばいいのかとか。なんでもいいから、相談できるうちに話すべきだったんじゃないかと考える。
でも、そんなことに今さら気づいたって、この状況を見ればお母さんが手いっぱいなのはわかる。私のことで負担を増やすわけにはいかない。
「朝ごはんはいいや。いってきます」
私の声よりも大きく、また妹が泣く。もしかしたら私の声はお母さんの耳に届いていないかもしれない。それでも、もう一度言うほどのことではないと、静かに家を出た。