眠れない夜は、きみの声が聴きたくて
家に着くと、お母さんはまだパソコンと向き合っていた。締め切りでも近いんだろうか。そういうことも聞ける雰囲気でもない。
「あつい! さくらんぼがついた洋服にする!」
歩くだけで音を立てまくる妹を追いかけて、私は自分の制服を脱ぐことよりも先に着替えさせた。
うちの家族構成は私と母と父と妹。ちなみにお父さんとの血は繋がっていなくて、ふたりが再婚したことで五年前に家族になり、そして二年前に妹が生まれた。
お父さんは現在、単身赴任をしてるので別々に暮らしている。
しょっちゅう連絡はくるけれど、変わりはないか?とか、勉強はどうだ?とか、聞いてくることはいつも同じ。それで、私も心配しないでって返すのがお決まりのパターンになりつつある。
「うわ、ごめん。響。集中しすぎて時間忘れてた。もしかして晩ごはんの支度までしてくれたの?」
黙々と野菜を切っていると、お母さんが慌ててキッチンにやってきた。
「うん、カレーにしようかなって」
「じゃあ、続きはやるから、その間に未央をお風呂に入れてくれない?」
……え、と、言いかけたけれど、口には出さなかった。まだ自分の部屋にも行ってないし、腰だって下ろしてない。けれど私には〝お姉ちゃん〟っていう役割が振り分けられている。それはこっちが望んでいなくても、断ることはできない。
「うん。わかったよ」
私は不満を喉の奥へと追いやって、妹を脱衣場へと連れていった。
ずっとギリギリのところで、自分が苦手としてることをやっている気がする。
いつか、いつか、限界がくるかもしれない。
もうずいぶん前から、心が潰れていくような感覚に襲われている。