眠れない夜は、きみの声が聴きたくて
「えー? 響、電車乗らないの?」
「うん、なんかお母さんが近くにいるらしいから車で帰るよ」
「そっか! わかった。また明日ね!」
「うん、ばいばい」
駅前で友達を見送ったあと、私はトイレへと駆け込む。
チーズティーを無理して飲んだせいか胃がムカムカとする。こんな状態で電車に乗れるはずがない。
少しだけ戻したらスッキリできたけれど、満員電車に揺られる自信がなくて、再び街に向かって歩き出す。
いつの間にか飲食店のネオンが目立つ夜になっていた。
忙しそうに歩く人の波。テールランプを付けながら客待ちをしてるタクシーに、クラクションを鳴らしている乱暴な軽自動車。
どこもかしこもみんなスマホを片手に歩き、ぴんっと背筋が伸びてる人はいないのに誰も人とはぶつからない。ある意味すごい技だと思う。
きらびやかな通りにある看板が目に止まった。私は吸い寄せられるようにビルの中へと入り、パーテーションポールが立てられている列に並ぶ。前にいたのは二、三組だけで、すぐに受付まで進むことができた。
「いらっしゃいませ」
「展望デッキ。大人一枚お願いします」
「はい。二千五百円になります」
愛想のいいお姉さんに対応してもらい、ガラス張りのエレベーターに乗り込む。そしてあっという間に三十八階に到着した。