友達の恋人 ~ 一夜からはじまる愛の物語 ~
「香澄も、病気で苦しむ自分を玲奈に見せたくないって言ってた。玲奈が短大に進学して地元を離れた時、言ってたんだ。玲奈の記憶の中では自分はいつも笑っていて、元気でいられるって。」
「・・・」
「それだけで救われるって。玲奈との思い出が、最期まで香澄を支えてたんだ。」
俺の言葉に玲奈は体を小さく丸めて泣き始めた。
顔を覆って、涙を流し始めた。

俺は玲奈の体を包み込むように抱きしめる。

『渉・・・』
鮮明に思いだす。

香澄の言っていた言葉を。

『私の嘘に付き合ってくれてありがとう。ごめんね・・・こんな方法しか思いつかなくて。』

高校を卒業してすぐに入院した香澄。
元気に笑っていた姿からは想像できないくらい、毎日ベッドに横たわり、長く話もできないほどに病魔にむしばまれていった香澄。

俺が面会に行くと話すことは玲奈のことばかりだった。
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