Fake love(2)~離婚からはじまる社長の深愛~
私は頃合いを見て、バンケットルームを出てさっきのボーイを捕まえ、どの人が私に会いたいのかと訊いた。

カウンターには腰を下ろすにはカップルと一人の男性のみ。

やたら、二人の世界を浸るカップルを睥睨しながら男性に話し掛けた。

「神楽坂睦月です…」

「君に一度会って話がしたかったんだ…」

男性がサングラスを外し、私の顔を怒ったように見つめた。

「豊・・・！？」

「久しぶりだな。睦月」

「貴方、いつ…シンガポールから戻ったの？」

「つい先日だ…」

私を呼びつけたのは元夫の豊。父親譲りの美貌と百八十二センチの長身。
少し痩せたかの顎の辺りがシャープに見えた。
バーに居る女性陣の目を釘付けにしながらも本人は素知らぬ振りをしていた。
私は四年振りに会う元夫に鼓動を高鳴らせる。


私は豊の隣のソファ椅子に腰を下ろした。

「一つ訊きたいんだけど…どうして、神楽坂なんだ？」

「…旧姓に戻ると何か色々と面倒だったから…そのままにしただけ」

「…睦月の面倒くさがりは昔から知ってるけど…お前が神楽坂を名乗るおかげで、こっちは迷惑している」

豊は苛立ったように言い捨てた。


「・・・離婚したと言っても、誰も信じてくれない…父さんは快く承諾したかもしれないけど…俺は困っている…」

「でも・・・今更無理よ…私が誰かと結婚しない限りは…」

「予定あるのか？」

「ないわよ…結婚なんて…懲り懲りよ。豊は？」

「結婚よりも仕事だ…」

豊は飲みかけのブランデーの水割りを飲み干した。

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