ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?


由依に退職挨拶のマカロンを渡して、一人ヨロヨロと廊下を歩く。心理的には滝のような涙を流してるけど、鉄の意思で携帯を手に取った。


『ごめん、今日行けなくなっちゃった』

『同期の女の子が退職のサプライズパーティーを準備してくれてるらしくて、参加しないわけにはいかなくて』


理由なんて夏雪は気にしないかもしれないけど、『本当はデートに行きたいんだけど』っていう気持ちを伝えたくて一緒に送った。


程なくして、シンプルな返事がある。


『わかりました』



これだけ!?



そりゃドタキャンするのが悪いんだけど、微塵も残念な感じがないと自信がなくなってくる。ただでさえ二人で過ごせる時間は短いのに…。


デートに行けなくなったショックが大きすぎて、パーティーのサプライズ演技が上手く出来たどうかもわからない。とにかく、気が付けば魂の抜けきった顔で女子会に参加している。





「透子の新しい人生の門出に乾杯!」

かんぱーい、と明るい声が重なり、ありがとうとお礼を言う。ここはベリーヒルズビレッジ高層階のダイニングで、窓の外からは東京湾の夜景が見えた。


「ありがとう、凄いお洒落なお店だね」


「彼氏がここのオーナーと仲良くて、特別に予約させて貰えたんだよ。普通は予約しても二年待ちなんだって。透子のために抑えたんだから、感謝してよね。」


そのプレミア情報にみんなが盛り上がり、携帯でお店の写真を撮っている。


「でも透子、ホントは合コンじゃなくてがっかりしてるんでしょ。テンション低くない?」


「そんなことないよ。急にパーティーが始まるって聞いて、びっくりしちゃって。」


「大丈夫だよ、透子にはちゃんと彼氏ができるようにプレゼント用意したんだから」


蓮華の瞳がキラッと光る。

渡されたのは「美人じゃなくても!目指せオンリーワン!マネできるモテテク」と特集されたファッション誌だ。


「スタイルお悩み別コーデが参考になるよ。特に下半身太りさんとか、透子にぴったり」


「…下半身太りさんね。うん、まぁ事実だけども」


蓮華は「会社を辞めても私たちの友情は変わらないよ」とにっこり微笑んだ。


「今月号はね、私の写真がいつもより太って見えてサイアクなの」


蓮華が指差したページには「秋のほっこり素材」の特集があり、「エヴァーグリーンインフォテクノロジー 広報担当 」の肩書きと並んで彼女のオフィスショット風の写真が並んでいる。


サイアクと言いつつ、本心ではこれを見せたかったんだろうな、と冷静に思ってしまう私は性格が悪い。

もちろん、そんな態度を表に出すことはないし、これでも元営業職だから会話のノウハウくらい少しは心得てる。


「そんなことないよ、蓮華細いからよく似合ってる」


「ありがと、確かに透子みたいなスタイルだとこういう服は着こなせないよね。」


あっはは、と可笑しそうに蓮華が笑う。肩のあたりに鉤爪のように彼女のマウンティングが刺さってる気がするけれど…まぁいいか。

本当ならこの時間は夏雪と一緒にいられたはずなのにと思うと落ち込むので、無意味にたくさん笑った。
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