ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
夏雪にぐっと腕を捕まれてテラスに出る。テラスフロアにいる人はみな、予想外の花火に釘付けになっていた。


「何がどうなって…!?ていうか本当に夏雪何やって…」


「話を聞いていなかったのですか?こちらは取引材料として、ご友人に差し上げました。」


「えぇっ?これプライベートの花火ってこと!?」


またしたも空が七色に瞬き、人々の歓声が聞こえる。花火を見る気が無いのは、私の腕を引いてずんずん前を歩いていく夏雪だけだ。


「ま、待ってよ。せっかくこんなに綺麗な花火なのに、見ていかないの?」


「必要ありません。言っておきますが、これは透子への贈り物ではありませんよ。」


「いいじゃんケチ!見ず知らずの人だってみんな見て…」


「透子は俺だけ見ていればいいのです」


急に振り返った夏雪に拗ねた瞳を向けられる。


「『付き合いたてでどうかるかわからない』とか。あれは透子の本心ですか?」


「それは…」


「こうして二人になれたのですから不粋なことは言いたくない。だから、透子は俺だけを見ていれば良いんです。」


何度も空が明るく染まっていたけれど、本当に縫い留められたように視線を動かせなくなっていた。


彼の腕に強く引き寄せられたかと思うと、唇がふさがれて、熱い舌に吸われている。体じゅうが夏雪の熱に触れたように感じた。


「…んっ…待っ」


「今なら、誰にも見られませんから」


全身と唇を柔らかく圧迫されて、溶けていくのに抗えなくなる。花火が上がる度に何度も目蓋が明るく染まった。ドキドキとうるさい心臓も、花火の音がかき消してくれるだろうか。

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