ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
「指輪ですか、ではまずサイズをお測りしましょう。どちらの指になさいますか?」


「え?えっと…」


店員さんに微笑まれてさらに緊張が高まる。「どちらの指」だなんて私に聞かないでほしい。控えめにピンキーリングって言えばいいの?それとも…左手薬指?いやいやそれはないか…。




「いかがいたしましょう?」


私が答えないからか、店員さんが夏雪に聞き直す。夏雪は一体どの指って答えるの?


「では、全ての指に」



「えっ、全て??
全部?
指十本ってこと?」


「無論です」


何がどう無論なのかさっぱりわからないけど、店員さんは生真面目かつ優雅に私の指十本分のサイズを測っている。



「ちょ、ちょっと待って。全部の指に指輪って変でしょ。変人でしょ」


「実家に出入りしている宝飾商はそういうスタイルで商談していますよ」


何をしれっと言っているのか。


「あのさ、私の勝手なイメージなんだけど、その宝飾商って、もしかして頭にターバン巻いて髭生えてる人なんじゃない?」


「ご明察です。透子は名探偵ですね…どうして分かったんです?」


「そういう人じゃなきゃ指全部に指輪なんて似合わないからね!無理無理、私はマハラジャじゃないの!」


夏雪はふむ、ともっともらしく納得する。どうやら私をインドの富豪に仕立てたいわけじゃないらしい。


「しかし、指に金属というのは護身の観点から役に立ちそうではないですか?

こう、幅が広い地金に鋭利な飾りがついていると尚更…」


言いながら夏雪は軽く拳を握っている。


「それは指輪じゃない。メリケンサックじゃあ!」


あぁ…もう我慢出来ずに突っ込んでしまった。きらびやかで上品な店内に似つかわしくない声が響く。
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