ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
「マンツーのレッスンに通ってるから大丈夫!
カフェとかでリラックスした雰囲気で教えてくれるから、いかにもお勉強してますって感じじゃないし。私でも続けられるかなーって。」
なんだか英会話教室の回し者みたいだけど、夏雪の授業から逃げなければ。けれど夏雪が気にしたのはそこじゃなかった。
「マンツー…とは?」
海外で生活していた期間が長いせいか、彼はたまに日本独特の横文字が通じない時がある。
「『マンツーマン』の略だけど、要は一対一の授業ってこと。英語ではそう言わない?」
「そういう意味なら、英語では『プライベートレッスン』ですね」
ふむふむ『プライベートレッスン』ね、と教えて貰った言い方で頭の中の辞書を書き換えた。
「それで、講師はどのような人物なんですか?」
「ネイティブの先生だよ。アメリカの…何州出身だったかな、ちょっと日本語が微妙なんだけどね」
「そうではなく、性別は」
言いかけて夏雪は胸元の携帯を見る。仕事の電話がかかってきたようで、「すみません」と断るとソファから立ち上がった。今回も英語の電話だった。
私が英会話を始めた本当の理由は夏雪だ。
仕事の電話をしてる夏雪はエグゼクティブなオーラ全開で近寄りがたい。
いつもと違う声に、聞き取れない言葉。
彼がすごく遠い存在に思えてしまうので、せめてひとつでも壁を取り払いたくて英会話を始めたのだ。
て、いうかさ。
なんで夏雪は私なんかと付き合ってくれるのかな……
押し掛けのように恋人になったは良いものの、冷静に考えると彼がわざわざ私を選ぶ理由はひとつも無い。
電話を終えた夏雪が、何か言いたげにこちらを振り返る。こういう時の用件は聞かなくても不思議と分かるものだ。
「仕事に行かなきゃいけなくなったんでしょ」