ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
「ふふ、なんでもないよ。私が夏雪にしてあげられることは、ちっぽけだなと思ったの」
ゆるキャラだとか、ドリンクバーとか。取るに足らないものばかり。
夏雪が手渡してくれたお茶は淡い色合いで、口を付けると見た目から想像できないくらいに清々しい香りが広がった。味は柔らかくて、うっすらと甘い。
「美味しい…」
「良かったです。けれど透子、今日のあなたの言葉には所々違和感があります」
「え?」
「いえ、もしかしたら今日だけではないのかもしれない。
透子と俺が距離を縮めた日からずっと、何かを掛け違え続けているのかもしれません」
「な、んで…?」
夏雪が何を言おうとしてるのか想像して、体の芯が冷たくなった。一段と冷えた夜風が肩を撫でる。嫌だ、聞きたくない。この先は怖くて夏雪の目を見られない。
「全く…何か勘違いしていますね…」
ぎゅと丸めていた手に夏雪の手が乗り、自分が震えているのに気が付いた。暖かくて、大きな彼の手。
「透子が俺に与えてくれるものが、ちっぽけだなどと」
「だって、実際そうだもの。私はどこにでもいる会社員だし。何もかも釣り合ってないことくらいわかるよ」
「それは幻想です。透子は、俺という人間を根本から作り替えたのです。
誰も信じず、組織の駒として役目を全うするだけの俺を否定し、人に頼ることを教えたのはあなたです。」
「そんな凄くないよ。私はただ…」
夏雪が居なくなってしまうのが嫌で、突っ走っただけ。だけど言葉にする前に夏雪がきっぱりと首をふった。
「最近になって秘書を雇ったのも、個人で済ませていた仕事を組織化しているのも、全ては透子が始まりです。
あなたがいなければ、俺がこの世界を見る光そのものを失うと、知っていますか?」
「…」
その言葉にびっくりして、全身に熱が巡る。ぽかんとしたまま「知りませんでした…」と呟くと、夏雪が苦笑した。口を開けたままの私の顔が間抜け過ぎたのかもしれない。
「では以降忘れないで下さい」