ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
彼は私より3つも年下なのに、いつも余裕たっぷり。真っ直ぐな瞳に見つめ返されれば、目を合わせる時間の長さだけ、心の内側から溶かされる。
「透子、あなたの全てが欲しくなる。
本当に…自分にこういう感情があったとは、つい最近まで想像もしなかったですよ。」
「…!」
どうしよう。胸がきゅうっとなった。もうずっと、どうしていいのかわからないくらい好きなのに、追い討ちをかけられたら好きが溢れて胸が苦しい。
「夏雪…私も…私もね、」
伝えようと息を吸うと、不意に遠くから急いで走ってくる足音が聞こえてきた。
「緊急時につきGPSを使用させていただきました。失礼いたします。」
夏雪の秘書の九重さんだった。夜の空に緊張感のある声が吸い込まれる。夏雪は空気が変わったよう気配を鋭くして、静かに九重さんに向き直った。
「ご実家に関わることです。ご報告してもよろしいですか?」
「わ、私は席を外しましょうか…?」
私が聞いたらまずい話なのではと思って口を挟んだけれど、九重さんは「矢野さんにもご同席いただいた方がよろしいかと思います」と、そのまま話を続けた。
「樫月本家からの命令です。真嶋家の家系図の情報が拡散されているため、急ぎ対処するように、と」
夏雪が一瞬だけ眉を険しくする。
家系図?情報拡散?
そもそも家系図なんて無い家に生まれた私には、その情報が拡散されるとどうなるのか、さっぱりわからない。
けれど、自分のルーツについての情報がばらまかれているとしたらゾッとする。夏雪と、ご実家は大丈夫だろうか。
「透子、心配させてすみません。真嶋家の家系など、情報そのものに大した価値はありません。」
「ですが真嶋さん、あなたに…!」
「最悪、ゴシップ記事などで一時的に騒がれることはあるかもしれないが、その程度です。おそらく取るに足らない私怨か、興味本位でしょう。」
夏雪は冷静に構えているけど、九重さんはまだ慌ててる。かなりの重大な事態なのだと思う。
「これから一度実家に戻り、報告をまとめます。透子、申し訳ないですが、」
「うんっ。すぐに帰るから、私のことは何も…」
「ではなく、当面の間は身の安全を確保できる場所にいて下さい。
後のことは九重に任せます。くれぐれも不測の事態がないように。また、可能な限り彼女の自由を阻害しないで下さい。」
「えっ?」と聞き返した声は、九重さんの「かしこまりました」の返答にかき消された。