ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?

「いえ、蘭様は真嶋家に嫁がれた方ですよ。

…すみません、これ以上は夏雪様からお聞きで無いなら、私からはお伝えできません」


九重さんが気遣うように眉を下げる。確かに勝手に聞いていい話じゃない。

けれど、夏雪は私に何も話してくれないんだなと思うと心に引っ掻き傷がてきたように痛んだ。



「革新ばかりでなく、やはり、ああいった伝統は守られるべきよ」


再び窓辺の女性たちの声がする。


「そうですわね。もう樫月が誇る真珠は受け継がれないのかと思うと残念でならないわ。真嶋家は偉大な損失を分かっておられないのかしら」


「当代が最後だなんて、ねえ。でも、制度は変わっても慣習はそう簡単には変わらないものよ」


そうですわね、と上品に女性たちが笑っている。話の内容は分からないけれど、夏雪の実家を非難する気配に心がざわざわした。


「矢野さん…?
念のため言っておきますけど、写真展には行ったらだめですからね」


「だめなんですか?」


「どうせ、行って調査でもしてくる気でしょう?」


さすがは夏雪が認める有能な九重さん。私の考えなんてすぐに読まれてしまうらしい。


「それじゃ、私は何をしたらいいですか?仕事も辞めちゃって暇だし、何か夏雪のためになりそうなことをしたいのですが」


「それでしたら、外に出ないで下さい。」


「えっ?」


「このベリーヒルズビレッジの中であれば、ご自由に過ごして頂いて構いませんので。
お買い物でも、エステでも、各種のスクールやワークショップでも。快適な生活をするのに十分な設備があります。レジデンスのスマートキーで全てお会計はできますし…」


九重さんが流れるように説明してくれる内容が頭を素通りしていく。


「どうして私なんかにそこまで気を使って頂く必要があるんです?真嶋家の家系図の問題と、私は何も」


「夏雪様と親密なご関係である以上、無関係ではないですよ。
私は夏雪様より、矢野さんに危険がないよう厳命を受けておりますので、ここは譲れません。」


ピシャリと言われると、それ以上は引き下がれなくなる。だけど、夏雪も少し過保護過ぎないかな。困ってることがあるなら少しでも力になりたいのに。
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