ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?


「あちらの方…樫月のご関係の方かしら」


「まぁ、珍しい。どこのお嬢様かしら」


ふーむ。

ここに住んでるのは本当ならかなりのセレブだから、私もそうだと勘違いされたみたい。早速、上品なおじさまに話しかけられる。


「ワインはお好きなんですか?」


ホントはビールとハイボールの方が好きなんですけどね。まあ私お酒わりと強いんで、何でもイケるくちですよ。

なんて、正直に言いたくなるところをぐっとこらえる。


「あんまり詳しく無いんですが、お勉強したくて、ウフフ」


「それはいい、ここでは最高級シャトーの円熟した味わいと、世界中の美食とのマリアージュを堪能できますよ」


「まぁ、それは素敵ですね」


「マリアージュと言えば私の息子の結婚相手には、あなたのような方がぴったりではないかと。私が会社を経営してゆくゆくは息子に継がせたいと考えているのですが…」


「えぇ??」


なんで急に息子の結婚相手にぴったりとか思われるんだろう。気が早いにも程がある。最大限の営業スマイルを浮かべながらさっさと逃げ出した。


けれど、その後も「運命を感じる」だの「お友だちから始めたい」だの、さらには「割り切った大人のお付き合いを」だのと失礼な誘いまで引きをきらない。作り笑いで顔面筋肉痛になってきた。


「一目惚れなんです」


「私そういうの一度もされたことないから、勘違いだと思いますよー?」


「奥ゆかしいところも素敵ですね。ビジネスもプライベートもお互い良いパートナーになれそうだ」


「はは…思い込み凄いですね」


わけの分からない誘いを聞くのがいい加減もう限界になり、人混みに逃げ込んだ。

樫月グループの関係者と勘違いされるだけでまともに人と話すことすらできないなんて。夏雪はいつもこんな大変なのかな…。
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