ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
いや、彼の場合は誰もを魅了してやまない圧倒的な美しさまで兼ね備えてる。もしかしたら彼にすり寄ろうとする人ばかりで、まともなコミュニケーションを取ることすら難しいかもしれない。
「…だとしたら、きっと淋しいよね」
私が側にいることで、夏雪の淋しさを埋められるのかな。私は夏雪のことを、本当に分かってるのかな…。
結局、情報収集は空振りに終わってしまい、パーティーの後半は夏雪のことばかり考えてしまった。
「あーーー疲れた…。
帰ったら、ウコンでも飲んで寝よ」
それからずっと、行けるところには何処にでも顔を出してみた。 このベリーヒルズビレッジでは投資や音楽などのテーマに合わせたパーティーが連日開かれているので、情報収集場所には困らない。
けれど、真嶋家の家系図を悪用する噂には全くたどり着くことなく、何度めか分からないくらいの空振りを繰り返していた。
そんなある日のこと。
「例の写真展?
行ったよ。本当に噂通りに綺麗な人で見とれたな。
バレリーナじゃなくて、真嶋の姫としての写真展にしたほうがもっと集客できるんじゃないの?」
やっと探していた話題をしてくれる人が見つかった。私より少し歳上で、ビジネスカジュアルが似合う上品な男性だった。
焦るな私。できるだけ自然に話を聞き出さなきゃと自分に言い聞かせる。
「でも…どうして最近になって真嶋家のご関係者とわかったんでしょうね?写真展は昔から開かれていたんですよね」
「事の発端は下らないネットの書き込みだよ。でもあの姿が何よりの証明かな。当代に瓜二つだ」
「当代と仰るのは?」
「勿論、真嶋夏雪さん。あの人の寒月祭での美しさは歴代一って噂だけど。きっと蘭さん譲りだろうね」
「そうなんですね…」
急に夏雪の名前を聞いて手から汗が吹き出た。それに寒月祭なんて夏雪から聞いたこともなくて、知らない情報の渦に心がざわめく。
「彼はビジネスの世界が好きなようだけれど、僕は真嶋家の本懐に集中したほうが文化的だと思うな。
蘭さんの写真展が注目を集めているのも、もしかしたら伝統を軽んじる樫月グループへの警告なのかもね」
なんだか嫌な感じがする。落ち着くためにグラスに残っていたワインを飲み干した。
「…それは、何故ですか?」
その男性は思わせ振りに笑って、人目につかない場所で話そうと新たなグラスを手渡してくる。