ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
冷や水を浴びせられように全身が冷たくなった。考えるまでもなく、私がこの時代最高の美女なわけない。


本当は夏雪には誰かとても綺麗な相手がいて。彼の体温は、熱を帯びた瞳は、私だけのものじゃなくて。夏雪は、真嶋の姫と呼ばれるその人と…


「うそ」


考え始めると頭がズキンと痛んで、視界が消えていく。


「若くて美しいものに惹かれるのは自然の摂理でしょう?現に僕もあなたに惹かれてる訳だし。」


「は…?なんれ」


「ちょっと飲ませ過ぎちゃったかな…?

聞いてたよりいい女だし、君とは一度の関係だけにするつもりないんだ。
頼まれたことはしなくちゃならないけど、酷くしないから、ね?」


目眩がしてこの人の話が聞き取れない。腕を引っ張られて、踏みとどまろうと抵抗すると空がぐるんと回転した。


「もう立ってられなくなっちゃった?」


「やめ…」


抱えあげられられて、降りようとしても全然力が入らない。助けを請うように何度もその人の背中を叩いた。


「わた、し、行か…」


「暴れないでよ、誰か見てたら無理に連れ去ってるかと思われるでしょ。」


車の後部座席に下ろされて今度は強い力で抑えつけられる。足をどこかにぶつけてひどい痛みが走った。


「怖くないから」


「…やっ」


目隠しをされて、口の中に甘いワインが注ぎこまれる。その人の息づかいが近くに聞こえて首筋を舐められる感触がし、体がガタガタと震え出す。


「心配しなくていいよ、僕だって無理強いとか苦手だから。うんと良くしてあげる」


「やめてっ、どいて…」


力任せに叩いてもまるで相手にされなかった。
どうしたらいいの。ああ、だから夏雪は尖った指輪をいっぱい着けろとか言ってたのかな。でも、私には指輪なんかないほうが、きっといいのに…


夏雪、夏雪と叫びたい気持ちを抑えてネックレスを握りしめた。私みたいなのが彼の知り合いだと知られたら、きっと良くない。
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