ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?


「聞こえました?」


「聞いてないけどっ。聞かれて困るような電話なら近くでしないで」


「酔っぱらい、悪酔いが過ぎる」


とすん、と寝転ぶ音がして、呆れた声が枕の近くから聞こえてくる。


「あなたが寝てる間に診察して貰っていたんですよ。看護師から、特に心配要らないですが今夜は安静にするように、だそうです。」


「え…今の電話?
飲み過ぎただけなのに、診察までしてくれてたの…?」


瞳が濡れてるのも忘れて顔を上げてしまうと、物言いたげな夏雪の視線にぶつかる。


「全く…俺がどれだけ心配したと思ってるんですか」


「…っあ」


前触れもなく首筋を噛まれて、痺れるような痛みが走った。痛みの隙間を舌で溶かされて、急な刺激になす術もなく声を漏らしてしまう。


「俺は今もあなたを抱きたくて仕方がないんですよ。医者の言いつけを守りたいなら、これくらい我慢してください」


「ね…っ、ん…待って、言ってること、むちゃくちゃ…」


「無防備な透子が悪いんですよ。俺はもう、あなたの体も感触も、全部覚えてるんですから」


夏雪に覆い被さられて、慌てて乱れたバスローブの胸元をひっぱる。以前に同じベッドで過ごしたのはもうずっと前のことだったし、彼の熱を帯びた視線を浴びると気が変になりそうだった。


「…っ、あんまり、見ないで」


「無理です。あなたが俺を魅了するから」


そんなわけないじゃんと頭ではわかっていても、耳朶を唇で弄ばれながら「透子」と何度も呼ばれると、苦しくて切なくて何も考えられなくなる。


「本当に、今可愛い顔をされると困るんですよ」


「も、…意地悪っ」


私の性格上、絶対恥ずかしくて言えないし、今は安静にしてなきゃいけないのもわかってるけど。

でも。


抱いてくれたらいいのに。身体中の全部を、夏雪に甘く焦がしてほしい。せめてキスだけでも、


「…っ」


そう思った瞬間に唇を塞がれた。唇から上顎まで舌で溶かされて、助けを求めるように背中にぎゅっとしがみつく。夏雪の重さを受け止めるのが嬉しくて、もう離れられなくなってしまった。


「んっ…もっと」


さらに首に腕をかけて体の隙間を埋めると、キスの合間に彼の吐息だけが聞こえてくる。幸せな感触に、また少し視界が滲んだ。


「 ずっと…こうしていられたらいいのに」


「…、透子…、本当に、
体調が戻ったら覚悟しておいて下さい」


「ん?」


夏雪の苦しそうな声に、急に理性のスイッチが戻る。


「あ…ごめんお酒臭いのに、私ってば」


「……。謝るポイントが全然違ってますけど、あなたが思ったより馬鹿なんで念のため伝えておくと、他の男に飲まされた酒でなければ、気にもしませんよ」


「ば…、思ったより馬鹿って言った!」


「残念ながら。でもこれで分かったでしょう?俺がどれだけあなたを求めているか。

…ですから、あなたが聞いた噂話に意味などありませんよ」


「それって…?」


「透子はパーティーで、真嶋家の婚姻に関する醜聞を聞かされたんですね」


夏雪の方からその話をされるとは思わなかった。


「……ごめんなさい、本当は、家系図を悪用してネットに情報を拡散してるって人の手がかりを探すつもりで。

それは全然見つからなくて、でも、夏雪には真嶋の姫っていう、すごーーーく綺麗な相手が」


話の途中で両頬をぶにーんと伸ばされる。


「やめえおお…」


「ふふ、可愛い。順を追って説明しますから、その先を口にしてはいけませんよ。いいですか?」


うんうんと頷くと頬から手を離してくれた。けれど夏雪がじっと黙ったままなので視線を向けて問いかける。


彼にはとても珍しく、何かを躊躇う表情をしていた。
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