ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
「品種改良が昔から一般的に行われているように、久左衛門の試みも単純なものです。欲しい特性同士を掛け合わせれば良いわけですから。」
「でも」
「無論、時間はかかります。何代も何代も、久左衛門の命が尽きてもなお、ずっと。
気が遠くなるほどそれは繰り返され、俺の父親の七夜(ななや)が生まれる頃には、真嶋家の人間は生ける人形として…」
「ねえ…!結婚する本人たちの意思は無視して、美しさを求め続けてきたの?樫月家の人が全部決めて?」
そんなのって、おかしいよ
言おうとして慌てて口をつぐんだ。だって、そういう結婚を繰り返してきたから今の夏雪が生まれてきたんだもん。
けれど、夏雪がさらっと
「狂気の沙汰ですよね」
と言ったので、どう返していいか分からずに「ううう」と固まる。
「あなたがそう優しいことも、この話をするのを躊躇った理由のひとつですが、
透子が心配しているような気遣いは無用です。俺は自分の存在に悩むほど子供ではありませんよ。」
夏雪がまるで私を慰めるように頭を撫でるから、弾みで泣かないように喉に力を入れた。私に傷つく資格は無いのに、これじゃあべこべだ。
「この話は公然の秘密とでも言いますか、この辺りに住むゴシップ好きな方にとっては格好の餌食になります。
あなたが聞いた噂話とも符号しているでしょう?」
「でも…もっと、夢のあるシンデレラストーリーみたいな雰囲気だったよ。とっても綺麗な女の人が、真嶋の姫として迎え入れられるって…」