ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
「では、予定を空けておいてください。
それで話を戻しますと、三年前に真嶋家の制約は無くなり、自由を得た俺はその後透子に出会います。あとはもう知っていますよね?
気がついたら恋に落ちていました。取り返しがつかない程に。」
「…っ、
っ!?、…ええ、えと」
「あなたが俺から離れないようにしたいし、毎日顔を合わせて、必要なときにあなたを守れるようにしたい。
だからいっそ、結婚してください。今、すぐにでも。」
「ええええ!?」
長い、長い沈黙が訪れた。まさかプロポーズされると思ってなかったので、頭が白紙になってしまったのだ。
「何故そう驚いているんです?真嶋家の婚姻についての話をする時点で、想像つきませんでしたか?」
「つかないよ、私は夏雪みたいに頭良くないんだから!
それに、私が夏雪から離れるかもしれないっなんて言うから、将来は決まった相手がいるから愛人になってとか、期間限定で付き合おうとか、そういう話になるんだとばかり…」
夏雪が最大限のげんなりした顔でため息をついている。「その程度の気持ちだと思われていたとは心外です。」と、私の髪をぐしゃっと乱される。
「だけど…本当にわからないんだけど、どうして今の話が私が夏雪から離れる理由になるの?」
夏雪が眉をしかめて視線を反らした。覗き込んで見ると少し耳が赤いかもしれない。もしかして照れてる?でも、どうしてこんな質問で。
「この話を聞くと、大概は好奇の目で見るか、気味悪く思うか、あるいは人形としての価値を褒め称えるか。普通はそういう反応をして、人として見られなくなるものなんですよ。」
「…そうなのかな。そりゃ、私だって夏雪の顔好きだし、ヤバい、カッコいいなぁ~って思っちゃうけど。
夏雪がどんな生まれかって、夏雪がどんな人かっていうことの一部でしかないし。
話を聞いて、私は夏雪のこと本当に人間くさい人だなーって思ったよ。キラキラした外側に負けないように、『人形』なんて言わせないようにずっと努力してきたんだろうなって。
だから、顔立ちもそうだけど表情とか立ち振舞いとかも、それから仕事頑張りすぎるところも、頑固でプライド高いのも、いろいろ全部ひっくるめてめちゃくちゃ魅力的になっちゃったんだけだと思うけどなぁ…。」
真剣に考えていたら顔に枕が降ってきた。ぼふんと視界が塗り潰されて、思考がぶつ切りになる。
「もうっ、なにすんのっ!?」
「失礼。あなたの安静のためにも、黙って頂いた方が良いかと」
「人が真剣に考えてるのに…」
「それは体調が戻ってからで結構ですから、結婚については前向きにご検討下さい。返答はいつでも良いなどと悠長なことは言えませんので、適宜催促します。」
夏雪はいつもに増して硬い口調で、まるで商談のように確認するなり「もう寝ないと体に悪いですよ」と話を終わらせてしまった。
一方、私はというと、
「こんな話の後ですぐ寝れるわけないじゃん」
と文句を言って、そのわりにすぐにすやすや眠ったらしい。繊細さの欠片もない自分の行動に呆れる。
けれど、夏雪の体温が極上の真綿のように私を包み込んで、心地良くてたまらなかったのだから、仕方がないのだ。