ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
頭には動物の耳のように見える二つの葉っぱとつぶらな瞳。まるっこい二等親はフワフワの白い毛で覆われて、ドングリの飾りがついたポシェットを斜めにかけている。
元気な声の女性が紹介すると、小さな子供がわーっと集まってきた。
「おーくん!」
「矢野さん、ゆるキャラ好きなんです?」
「あの子は特別なんです!近くに行ってもいいですか?」
夏雪が頭を悩ませていたあのおーくんが、こうやって形になってる。そう思うとおーくんの姿が愛おしく見えて目頭が熱くなった。
可愛いキャラクターの定めとしておーくんは早くも子供たちにもみくちゃにされていて、つぶらな瞳がうるうると困った表情になる。
「え、表情…あるの?着ぐるみなのに?」
「そうなんです!おーくんはいっつもニコニコ、じゃないんですよー!
みんなが優しくしてくれたら、にっこにこになるからね」
思わず呟いた疑問を、元気な声の女性に拾われてしまって気まずい。けれど、どうして着ぐるみの表情が変わるのかますます気になった。
「矢野さん、こちらに『おーくんは、最新のエモーションアシストシステムによって、表現のあるお顔が魅力のキャラクターです』と書いてありますよ」
九重さんがおーくんを紹介したリーフレットを手渡ししてくれる。中を読むと、どうやら呼吸や心拍数、脈拍から表現を読み取って、それを愛らしく表現するしくみになっているらしい。
夏雪がゆるキャラの個性として、こんな可愛い仕掛けを用意したんだと思うと頬が緩んだ。それに、魔法のようなしかけを実現できてしまうテクノロジーには驚くばかり。
おーくんは、遠巻きに眺めている大人しそうな女の子に近づいて、ポシェットから銀色の羽を手渡している。
「おーくんのパワーのお裾分け!元気いっぱい、幸せになれるお守りだよ!」
元気な声の女性が紹介すると、女の子の顔がぱあっと華やいだ。
「これで今度の手術、がんばれる…?」
女の子の頭をおーくんが撫でると、女の子は子供らしく笑って、側にいるお母さんがそっとハンカチで目を押さえている。私も自然と胸が熱くなった。この姿を夏雪に見せてあげたら、きっと喜ぶに違いない。
けれどその感動も冷めやらぬうちに、小さな子供たちが「ぼくも、わたしも欲しい」と詰めかけて、おーくんは逃げるように休憩タイムに入っていった。まとわりついてくる子供を優しく引き離し、ごめんね、またね、とゼスチャーしながらペタペタと短い足で掛けていく。
「ん?」
そんな愛らしいおーくんに、ただならぬ殺気を放っている一人の女性がいた。
腰にまで届く長い栗色の髪に、華奢な体。ニットワンピースとショートブーツが似合う、見た目だけなら絵本から飛び出してきたような可愛い女性だった。
けれど、武道のような構えをとっておーくんに飛び掛かろうとしているので、「待って」と彼女に立ち塞がる。
「危ないことしないで!」
「ノー、フシンシャ、コドモ、マモル!」
元気な声の女性が紹介すると、小さな子供がわーっと集まってきた。
「おーくん!」
「矢野さん、ゆるキャラ好きなんです?」
「あの子は特別なんです!近くに行ってもいいですか?」
夏雪が頭を悩ませていたあのおーくんが、こうやって形になってる。そう思うとおーくんの姿が愛おしく見えて目頭が熱くなった。
可愛いキャラクターの定めとしておーくんは早くも子供たちにもみくちゃにされていて、つぶらな瞳がうるうると困った表情になる。
「え、表情…あるの?着ぐるみなのに?」
「そうなんです!おーくんはいっつもニコニコ、じゃないんですよー!
みんなが優しくしてくれたら、にっこにこになるからね」
思わず呟いた疑問を、元気な声の女性に拾われてしまって気まずい。けれど、どうして着ぐるみの表情が変わるのかますます気になった。
「矢野さん、こちらに『おーくんは、最新のエモーションアシストシステムによって、表現のあるお顔が魅力のキャラクターです』と書いてありますよ」
九重さんがおーくんを紹介したリーフレットを手渡ししてくれる。中を読むと、どうやら呼吸や心拍数、脈拍から表現を読み取って、それを愛らしく表現するしくみになっているらしい。
夏雪がゆるキャラの個性として、こんな可愛い仕掛けを用意したんだと思うと頬が緩んだ。それに、魔法のようなしかけを実現できてしまうテクノロジーには驚くばかり。
おーくんは、遠巻きに眺めている大人しそうな女の子に近づいて、ポシェットから銀色の羽を手渡している。
「おーくんのパワーのお裾分け!元気いっぱい、幸せになれるお守りだよ!」
元気な声の女性が紹介すると、女の子の顔がぱあっと華やいだ。
「これで今度の手術、がんばれる…?」
女の子の頭をおーくんが撫でると、女の子は子供らしく笑って、側にいるお母さんがそっとハンカチで目を押さえている。私も自然と胸が熱くなった。この姿を夏雪に見せてあげたら、きっと喜ぶに違いない。
けれどその感動も冷めやらぬうちに、小さな子供たちが「ぼくも、わたしも欲しい」と詰めかけて、おーくんは逃げるように休憩タイムに入っていった。まとわりついてくる子供を優しく引き離し、ごめんね、またね、とゼスチャーしながらペタペタと短い足で掛けていく。
「ん?」
そんな愛らしいおーくんに、ただならぬ殺気を放っている一人の女性がいた。
腰にまで届く長い栗色の髪に、華奢な体。ニットワンピースとショートブーツが似合う、見た目だけなら絵本から飛び出してきたような可愛い女性だった。
けれど、武道のような構えをとっておーくんに飛び掛かろうとしているので、「待って」と彼女に立ち塞がる。
「危ないことしないで!」
「ノー、フシンシャ、コドモ、マモル!」