ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
ブラックスーツが似合う、息を飲むほど美しい立ち姿。
輪郭や鼻梁のシャープなラインの横顔には、アーモンド型の印象深い瞳が見事に調和している。さらに艶やかな前髪が控えめな影を落とし、危うい色気を放っているのだ。
夏雪の凛とした美しさは、どんな酷暑でも常夏のリゾートに変えてしまうだろう。
ただし、当の本人は自分の姿をわりと嫌っている。じーっと見たら良くないなと思いつつも、視線は引力に引かれるように夏雪の姿を追いかけた。
「あ」
ぼうっとしていたせいで両手に抱えていたお菓子をばらまいてしまった。退職の挨拶用に奮発して買ったマカロンで、Thank Youと書かれた透明なケースに一つずつ入っている。形が丸いからコロコロと方々に散らばってしまった。
慌てて拾い集めていると、親切にも誰かが手渡してくれる。
「こちらはあなたのですか?」
「助かりますっ、ありがとうございます」
その人は不思議なことに前髪を片方だけ長く垂らして、顔が半分くらい見えない。
「お手数をおかけしてすみません」
「いえいえ、微力ながらお役に立てて何よりです」
見えている方の瞳は切れ長で深い陰影を描き、屈んでマカロンを拾ってくれる腕はスーツが窮屈に見えるほど筋肉質だ。
只者ではないオーラを感じる。このフロアにいるということはエグゼクティブに違いない。私の落とし物を拾って貰っているのが申し訳なくて、慌ててマカロンをかき集める。
しばらくするとさらに別の人がマカロンを拾って、箱に戻してくれた。
「あ、すみませ…」
「相変わらず、そそっかしいですね」
「うわぁっ」