ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
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キラキラした世界の中で、夏雪がクロエを愛おしそうに見つめていた。
二人は海にいたり、草原にいたり。目の見えない彼女に夏雪は美しい世界の彩りを伝えている。
まるで、おとぎ話の中の王子様とお姫様みたい。
一度だけ、夏雪が私のことをお姫様のようにエスコートしてくれたことがあった。慣れないピンヒールで上手く歩けなくても、夏雪にエスコートされると雲の上を歩いてるみたいだった。
きっと目をつぶっても転ばなかったと思う。
だってそれは、かつて夏雪がクロエのためにしてあげたことだから。
そういえば、九重さんが言っていた。
夏雪はハンディキャップを持った人の採用に積極的で、周りに何を言われようと彼は雇用の機会を広げ、働きやすい環境を作ることに熱心なのだ、と。
今ならその理由がよく分かる。
ねえ、夏雪。
夏雪がクロエと恋をしていたときは、まだ自由に結婚させてもらえなかった時だったんだね。多分クロエは、視力のせいで真嶋家の姫には認められなかったと思う。
でも、今の夏雪は自由で、クロエの目はもうすぐ手術で治るから。昔の二人に立ち塞がった障害はもう何も無いよ。
それに。
夏雪の顔を知らないまま恋に落ちたクロエなら、夏雪の本当の素敵さをよく知ってると思うの。私はどうしても夏雪の顔も含めて見ちゃうからさ。彼女には、かなわないよ。
本当はこのまま海の泡に消えてしまえれば良かったけど、生身の人間だからそういうわけにもいかなかったみたい。
いつの間にか呼吸器のようなものをつけてベッド横たわっていた。どういうわけか、身体中が冷たくて少しも動かせない。
「まさか透子が…信じられない」
「はい、私も矢野さんがそのような非道な事をするような方とは思えませんが…。
クロエさんを前に冷静でいられなかったのでは。」
「トーコ…起きて…お願い」
ぼんやり聞こえる会話。
伝えたい言葉を発することも、瞳を開けることすらできずに意識が揺蕩う。どれくらい時間が経ったのか、眠っていたのが数時間か数日なのかもわからなかった。
何度も何度も、夏雪とクロエの夢を見ていた。何か特種な力で過去の二人を見ているのではと思えるくらい、圧倒的な夢だった。