ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
「あのー、もしかして、幸せの葉っぱをくれる気なら、いらないよ」
「きゅー?」
「幸せになれなくていいの。幸せになったら、大事な記憶が薄れていきそうなんだもん。
辛いままでいいから、ずっと覚えていたい。」
「きゅー…」
それでもおーくんが「いいから」と言うように私の手を取る。そっと手のひらに乗せられた小さな輝きは、幸せの葉っぱじゃなかった。
銀色の小さな円環。滑らかなフォルムに、深い輝きを放つ透明な石が乗っている。
「指環…?」
おーくんはまるっこい手でそれをつまみ、器用に私の左の薬指に通した。キツくも緩くもなく、ぴったりと指に収まる。
「え」
ぼふっと音がしておーくんの頭が外れる。突然の挙動に唖然としていると、きぐるみの中から突如として夏雪が現れた。誰かと見間違うこともない、空間を一変させてしまうほどの圧倒的な美しさだ。
「なん…で…?」
「透子の指のサイズなら全部覚えています。」
「…じゃなくて、なんで?」
「ここにいる理由ですか?あなたとのデートの約束ですから、当然でしょう。」
「そうじゃなくて…!」
「では何故、透子はここにいる?」
「…」
何故って…言われても。
一言では決して言い表せない。
「透子はどうせ、かつてのように泣く場所を求めているのでしょう?
あなたが好きなだけ涙を流せる場所は、俺の側以外には無いですから。」
夏雪が微笑んだ。その目が優しすぎるから、止まった筈の涙がまた溢れる。
「ほら、やっぱり」
夏雪が頬に手を伸ばす。けれど、でもその手はもふもふの短い白い手だ。可愛い肉球に涙を拭かれて泣き笑いになってしまう。
違う。こんな優しい空気なんてダメ。
夏雪をこれ以上なく傷付けてしまったから、私たちはもう笑い合える関係じゃなくなってる。
「夏雪に憎まれても文句言えないくらい酷いこと言ったって、わかってるから」