ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
二人目に加わってくれた人は夏雪だった。思いがけず目の前に現れたので声が上擦ってしまった。
「化け物でも見たような顔をして」
「や、だって、あの」
不満げに眉をしかめられるけど、どういうスタンスで接して良いかわからない。すぐそばに知らない男性がいるから普段の調子で話すのは無理だ。
「ふ、副社長に拾って頂くわけには」
最大限努力してへらーっとした作り笑いを浮かべると、夏雪はますます憮然とした表情になる。会社の中なんだからもう少し経営者っぽい態度のほうが良いんじゃないの…?
「ぶふっ」
すぐそばで、片方の瞳を隠した男性が堪えきれないように吹き出した。突然のリアクションにその様子をぽかんと見てしまう。
「?」
「失礼、くくっ、あははっ」
何がツボに入ったのか分からないけど肩を揺らして笑ってる。見た感じは夏雪や私よりも少し歳上。さっきまでは落ち着いた大人の男の人って感じだったけれど、笑うと少しやんちゃな印象になる。
「真嶋さん、こちらの方ですか?」
「…ご慧眼ですね」
二人は親しい間柄のようだ。夏雪の返答に目を細め、「こういった作業は苦手なんでお願いします。」と拾いかけのマカロンを箱ごと手渡している。
「申し訳ありませんがモバイルバッテリーをミーティングスペースに忘れてしまいました。十分ほどで戻りますので、ラウンジで少々お待ち下さい」
そう告げると颯爽と歩いて行ってしまったので、夏雪と二人、閑散とした廊下に取り残される。
「あの人は九重 遼河(ここのえ りょうが)と言って、つい最近専属の私の秘書として契約したんですよ。」
「専属…秘書」
よっしゃ!秘書が女の人じゃなくて良かった。
「何故両手の拳を握っているんです?」
「何でもないよ」
夏雪に指摘されて慌ててガッツポーズを下ろす。
「仕事の調整だけでなく、運転や警備まで幅広く対応して頂けて助かっています」
「警備…夏雪のボディーガードってこと?」
「はい。幸いにして、彼のマーシャルアーツに頼る状況になったことはまだありませんが」
夏雪は繊細な顔立ちから想像もつかないほど荒事に慣れてる。以前に私が怖い目に合ったときには、いとも簡単に相手を取り押さえていた。
その夏雪のボディーガードを務めると聞いて、筋肉質な九重さんの体つきに納得する。
「九重は以前に仕事上のトラブルで火傷を負い、片方の視力を失っています。前職を辞めたたのを契機に、秘書として働いて貰うことになりました。」
「それで、あんなふうに目を隠して…」