ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?

夢中で唇を合わせていた私たちはその言葉にびくっと身体を離した。


「…油断しました。逃げましょう」


「えっ?」


どういうわけか夏雪は私におーくんの着ぐるみを被せる。


「これ夏雪の役目でしょう!?」


「いえ、こちらの方が速いです」


そういうやいなや夏雪はおーくんになった私を抱えて走り出した。当然、ちびっこたちに見つかる。


「おーくんー!待ってー!
葉っぱちょうだい」


キスの余韻も何もなく、ちびっこの群れを夏雪に抱えられて逃げる。本当にこれはどういう状況なわけ!?


「透子、内部のボタンを押してください。時間を稼げます。」


ボタンって言われてもどれかよくわからない。手当たり次第押していたら鞄が膨れて銀の葉っぱが無数に舞い散った。光を受けてキラキラと輝いている。


「あー!幸運の葉っぱ!!」


ちびっこが気を取られているうちに、夏雪は上へ上へとダッシュしていた。


「可愛いですね、似合います」


「うきゅーん」


なっ…。私何も言ってないのに。おーくんのデレデレと喜ぶ鳴き声が鳴り響く。


「なにこれ?」


内部で叫んでいる声は夏雪に届いているのだろうか。


「エモーションアシストシステムは、内部の人間の心拍や体温、呼吸に反応して感情をキャラクターらしく表現するシステムです。

つまり、あなたはこれに入っている以上、素直にならざるをえません。」


「うきゅ…(なにその脅し)」


「好きです。愛してる。生涯を共にするならあなたしかいないと思う」


「きゅーーーん
くぅーん、きゅうきゅう!」


やめてーー!喋ってないのに!おーくんが勝手にべらべらと話し、ブンブンと尻尾をふる。


「透子の翻訳機として優秀ですね。あなたは本当に素直じゃないですから。これからもたまに入って頂けますか?」


「うきゅ…(誰が入るか!!)」


「ふふっ。さて、もうすぐ目的地です」


そう言われても近くにには窓があるだけで、ほかには何もない。と思えば、なぜか縄梯子が降りてくる。恐ろしいことに夏雪はおーくんと自分の体を金具で固定した。



「何やってるの…まさか昇る気じゃないでしょうね」


「透子は掴まってるだけで良いですよ」


夏雪が気にもせずに縄梯子を昇ると、屋上にはヘリが浮かんでいる。初めて聞いたけど爆音だ。


「うきゅー!!(怖いってばー!)」


「あなたを捕獲するのに調度いいかなと思いまして。」


夏雪はにこやかに物騒な言葉をはき、おーくんを抱えて登っていく。


「ねー、高いってば、怖いぃ!」


「何も怖くないですよ。周りを見るのが怖いなら、俺だけを見ていればいいんです」


「きゅ…きゅーーん」


余裕たっぷりに微笑む夏雪に、おーくんのエモーションが無駄に反応する。夏雪め…絶対分かってる上で遊んでるに違いない。


彼に翻弄されてる間にヘリポートにつき、夏雪が意地悪く微笑んで振り替える。


「ひとつ選ばせてあげます。このままプロポーズの返事をするか、おーくんを脱いでからするか」


「えぇ!?」


「いい加減、俺に溺愛される覚悟を決めて下さい。もう、待てません」


「きゅううぅん!」


おーくんの、ひときわデレッとした可愛い悲鳴が空に響き渡り、あまりの恥ずかしさに選択の余地なんて無いも同然だった。


「おーくんは脱ぎます…」


「良いでしょう。では話の続きは空の上で。これだけ焦らしたんですから、今度はあなたの言葉で伝えてくださいね」


もう…夏雪には完敗だ。ヘリに乗り込む後ろ姿に「幸せにして」と囁くと、夏雪の耳がうっすらと赤くなる。もしかして彼の顔も赤くなってるのかな。

期待して見上げたけど表情を見ることは叶わず、その代わりに、息をつく間もなく強く強く抱きしめられた。


fin.
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