ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
隠された顔の半分、長い髪の下を想像して言葉に詰まる。
「心配せずとも彼は悲壮感とは無縁ですよ。秘書としても非常に有能で、手離せない人材です」
「そうだったんだ…。二人の仲も良さそうだし、良い人と契約できたんだね。」
親切で人当たりも良く、仕事ができる上にフィジカルまで強い。夏雪の隣に九重さんがいてくれるなら本当に良いことずくめ…
ん?ちょっと待って。
その九重さんは夏雪にマカロン拾いを押し付けて、忘れ物を取りに行ってしまっている。もちろん、落とした私が文句言えることじゃないけれど。
それに、モバイルバッテリーならわざわざ取りにいかなくても普通は予備くらい持っているのではと思う。
「良い人だけど、ちょっと忘れっぽくない?」
「いえ、おそらく彼は何も忘れていませんよ」
「?」
話の流れが見えずに考え込んでいると、夏雪が微かに苦笑した。
「あなただからですよ。
先ほどは一目で俺とあなたの関係性を見抜き、彼が『忘れ物』を取りに行く間、あなたと二人で過ごす時間を作ってくれたわけです。彼なりの慰労でしょう。」
「そうなの!?」
そんなこと全く想像もしなかった。何も言わなくても気遣いを見抜いている夏雪もすごい。ハイレベルなコミュニケーションである。
「大人の男って感じ。尊敬するなぁ…」
「透子は本当に、その手の人物が好きですよね」
ぼんやりしてる間に夏雪が転がったマカロンを全部集めてくれて、コロコロと丸いケースが積み上がった箱を手渡される。
その時に指が軽く触れ合って、指先が痺れたみたいに熱くなった。今さら照れるようなことじゃないのは、わかってるけど。
「今夜、楽しみにしています」
「わ、私も」