ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
顔が熱くなって誤魔化すように伏せる。すると、視界の端に夏雪の抱えていた資料が見えた。デザイン画だろうか。ファンシーなイラストが描いてあって、思わず笑ってしまった。
「ふふっ、すっごい似合わない。」
「これですか…」
彼にしては珍しく表情を曇らせる。可愛いキャラクターを見ているとは思えない、悲痛な面持ちだ。
「実は困った状況でして」
「え?このクマだかイヌだかがどうしたの?」
「こちらは『おーくん』。クマでもイヌでもなく、樹齢二百年の樫の木の精霊です。」
その先は機密事項だからと何故かエグゼクティブ専用のラウンジに連れていかれる。
およそファンシーなイラストに不釣り合いな重々しさで、夏雪はイラストの設定を説明し始めた。彼の長い指がイラストの詳細設定を優雅に指し示す。
頭に乗っているのはふたつの木の葉っぱ。つぶらな瞳が愛らしく、二頭身のふわふわした体には、ドングリの飾りのついた鞄を斜めがけにしている。
「樫月グループの創設二百年を記念して作られる、マスコット・キャラクターです。葉っぱのパワーでみんなを幸せにするそうです。」
「葉っぱのパワー…」
「心配いりません。確認したところ、薬物ではないそうです。」
「当たり前でしょ!樫月グループのイメージ何だと思ってるのよ!!」
夏雪に真顔で説明されるおーくんが、だんだん不憫に思えてきた。こんなに可愛らしい姿をしているのに、これでは世に出る前から不穏な目で監視されているみたい。