不老不死の王子と夢みるOL
物語はいつだって突然はじまる
 私の思う、王道とは。そう、おとぎ話のような。シンデレラや、白雪姫、美女と野獣。

 純粋で純情で、それでいて、ハッピーエンド。


 なんだか見ているだけでとっても可愛くて、みーんな憧れる。



 そんな私も、憧れている一人。

 三浦海(みうらうみ)二十四歳。
 独身、彼氏いない歴=年齢。それもそうよ、私は待っているんだもの。物語の中の王子様を。



 現実にもきっといる。

 私だけの物語。私だけの王子様。



「ねえ、三浦さん! 今日さ、合コンあるんだけど、どう?」



 同期の佐藤さん。

 もうこんな時間か。
 東京にあるオフィス街、そのひとつにわたしはいた。


 毎日同じような事務仕事をしているだけなのに、今日は一段とオシャレして、どこに行くのかと思えば、合コンとは。



「私はいいや。これ……残業だから」



 目の前見ろや、と資料の山に視線を送れば「ざんねーん」と軽い調子で返される。

 ……私はいつも手伝ってあげているのにな、なんて思う。が、はっとする。

 いけない、いけない! シンデレラだって、こうだったじゃない! 一人だってやるのよ、海。
 それに、王子様が合コンなんかに行くわけないじゃない!



 苦笑いをしながら、黙々とこなしていく。





「はぁ~~」



 一段落して、ぐいーっと身体を伸ばし、辺りを見渡せば一人きりになっていた。



 仕事は、基本的にキツい。
 転職も考えてみるが、どんな仕事も同じな気がする。


 それならば、と。
 いっそ辞めてしまえば────王子様も。





 そこまで考えて、頭を振った。



 いかん、なにせもう二十四だからか、焦りが生まれ、そこから不安に繋がる。

 このまま一生、恋愛せずに独りきり。そんな未来も近い気がして、涙が出そうになる。




 こんなとき。プリンセス達はどうしていたのだろう。





 ため息をつき、再び資料と向き合う。

 早く終われ、と魔法を掛けるように、集中して。





 ……どれだけそうしていたのだろう。

 終電! と顔を上げると、そこには草原が広がっていた。





 ……え、夢? え、なに??



 座っていたデスクはデカイ石に。資料いつの間にかどこにもなく、足元は土草。
 風がゆるく吹き、穏やかな草木の音。あ、自然の良い匂い。




 じゃなくて、私、寝たの?

 あ、そうか。プリンセスを考えるあまり、そういう想像を夢でもしてしまったのね。



 思えば見える景色はシンデレラだったり美女と野獣であったり、眠れる森の美女のような世界観。



 素敵。この一言に尽きる。



 夢でも、いいかも。

 疲れきっていたのか、私はこの夢に身を預けることにした。

 こんなに綺麗で自然が豊かな夢をみられるなんて、後にはないかもしれない。



 やりかけの仕事が気にはなるが、たまには良いじゃないか。



 そう自分に言い聞かせて、立ち上がる。

 パンプスも脱いで、結っていた髪もほどく。ほら、楽園じゃない!



 深呼吸をし、肺いっぱいに優しい自然の空気。





「よし! 行こう!」



 探検に行く子供のように。はたまた、好奇心に勝てないプリンセス達のように。

 意気揚々と、一歩、踏み出した。
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