行き着く先は・・

••真実


修吾さんに救急箱を貸して貰い。
それでも頑なに手を広げない
聡吾さんに、
「治療だけさせて下さい。」
と、お願いをした。

聡吾さんが両手を開くと
左手はかろうじて爪がくいこんだ
後が残っただけだが
右手は、裂けていたから
消毒をして薬を塗り
軽く包帯を巻くと
聡吾さんは、
「ありがとう。」
と、言ったから希空は首をふった。

「さっきの人が言ったのは
どういう意味なんだ。」
と、聡吾さんは、修吾さんを見て訊ねた。

「先程の人は、青山 茜さんだ。
希空ちゃんのお母さんなのは
知っていると思う。

長くなるが聞いてくれるか?

この事は、茜以外には、
生涯話すつもりはなかったんだ。」
と、言いながら聡吾さんを見て
話す修吾さんに聡吾さんは傾いた。

「私と茜は、昔、付き合っていたんだ。

当事の茜は、今の希空ちゃんのように
親から受け継いだ店の事や
花の勉強に必死だった。
私も親から受け継いだ会社を
守ってきたが日本でやることに
限界を感じイタリアにいた先輩を
頼りにイタリアへの進出を考えた。

だが、あんなに頑張っている茜に
全てを捨てて付いてきて欲しいとは
どうしても言えなかった。

だから、私は茜と別れて
イタリアに行こうとした
だが、父親から
頼まれている娘さんがいるから
一緒に行くように言われた。

そうでなければイタリアに
行くことは許さないと。
自分の会社が傾いていても
あの人は、そんな父親だった。

私は、その女性・かすみ(聡吾の母)に
会いに行き
なにもわからない地に行くのだから
あなたに構う余裕もないし
会社が起動に乗るまで
会社に付きっきりになる
だから、かすみには日本にいる方が
良いと何度も言ったんだ。

もちろん入籍したいならして行くからと。

だが、かすみは海外暮らしには
慣れているし
心配ないと何度言っても
きかずに自分の父親を通して
父に言ってきたんだ。

そこでも、私は両家の父親と
かすみに同じ事を言ったが
かすみが大丈夫だと言うのだから
心配ないと向こうの親も。

一緒にイタリアへと来たが
やはり、日本人が異国の地で
会社を起こす事は大変で
先輩も力を貸してくれながら
やっても、うまくいったり
駄目になったりの繰り返しで
中々定着しなかった。

かすみは、あんなに言ったのに
ほっておくだの
寂しいだのと言い出して
私は、それなら
日本へ帰るように再三言ったんだ
そしたら、今度は
子供が欲しい·····と

無理だと何度も言ったら
また、父親と父の力を借りたらしく
連絡が入り、
私は、抱いた。

生活も不安定な中
愛情もわいていない女性を抱く事の
辛さ虚しさは、男性にしかわからない。

聡吾が生まれても
かすみは変わらず
聡吾の事は、全てナニーがみていた。

それは、
かすみの俺への当て付けだったのかも
しれない·····
あの時から、おかしかったのかも
しれない······

だが、そんな時に
会社が倒れそうで
立て直しに躍起になっていた。
持ち直した時
かすみは、ナニーを辞めさせていたんだ。

だからといって聡吾の
面倒をみるわけではないから
会社に連れて行く毎日を送った。

聡吾が三才になるときに
きちんと子育てするからと
泣いて伝えてきたかすみに
本当にやれるのかと何度も訊ねて、
離婚して日本へ帰りたいなら
そうしても良いと言ったが
かすみは、首を横にふるだけだった。

小学校は日本人学校に入れることは
私が決めていたんだ。
聡吾に日本の国を知っていて欲しかったから

それからは、聡吾が見て来た通りだろう

体の事も再三病院に行くように言ったし
連れて行くとも言ったけど
一人で行ける······と
私の力を借りたくなかったのだろう。

もう私もどうしたら良いのか
わからなかったのは事実だ。
かすみの性格自体も
知らなかったのだから·····。。

やっと、会社が起動にのり
沢山の社員を抱えるなか

秘書にいいつけたんだ。
たぶん逃げもあったと思う。

かすみが亡くなったとき
私の父親も、かすみの父親も
私を責め立てた。
親父は、顔がつぶれたと騒ぎ
かすみの父親からは、
訴訟とまで言われた。
私は、それを受けるつもりでいた。

イタリアにつれてきた事に
間違いはなかったから。

それを耳した先輩が
それは、おかしいと言って
当時のナニーや先輩の言葉
秘書の証言で
かすみの両親からは謝られた。

だが、娘を亡くした
それに変わりはない。

だが、私自身が
自分の父親だけは、
どうしても許せなくて····

聡吾を渡せと言ってきたんだ。

それを許すことはできなくて
弁護士をいれて断った。

それからは、秋山の両親とは疎遠だ。

かすみの両親には、聡吾の成長は、
知らせていたが他界された。

おまえが私を嫌っているのも
母親を大切にしていたのも
知っていたから言わなかった。

いや、言えなかったんだ。

おまえにとって良い父親では
なかったから。」
そう語った修吾さんは、
黙ってソファーに腰かけた。
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