先輩、後ろの2文字ください。
「もう、だいぶ暗いですね」
「……そうだね」
「夏帆先輩」
「なにっ……!?」
頬に当てられた冷たい物体。
驚きで肩をビクつかせた私を彼は愉快そうに笑った。
「きゅ、急になにするの」
「元気出ました?」
「……っ。心臓に悪いから……!」
ニヤニヤとした顔で覗き込まれ、私は自分の瞼の上に手の甲を置くと合わさった視線を遮断した。
すぐ近くで聞こえたちいさな溜息に動揺して、瞼から少し浮かせるとその手をそっと掴まれた。
「逮捕です」と赤らめた顔で言う彼。
「逃げるもん……」なんて往生際の悪い私。
そのまま掴まれた状態で駅まで歩く。
手繋ぎの一歩手前のような現状に恥ずかしくなって無理やりその手を払うと、少し切ない顔で彼は私を見た。