先輩、後ろの2文字ください。
「今日は、ありがとうございました。すごく楽しかったです」
本屋さんでの用も終え、外に出たとき。彼は歩く私の後ろで、そう言った。
振り向けば、曇りのない笑顔。喜びと幸せに満ち溢れたそれは、私の胸を痛いくらいに締めつける。
……楽しかった時間は、あっという間に過ぎた。あとは、帰るだけ。
足も疲れたし、早く家に帰って休みたい。
そう、思ってるのに……。
心は、寂しさに埋まっている。
一度下げた視線が、上げられない。
「夏帆先輩」
頬に触れた優しい掌。目の下を擦る親指が外の気温に反して冷たく、気持ちがいい。
頬に触れていた手が離れた次の瞬間、知らぬ間に閉じていた瞼にその手が覆い被さった。
さっきまで感じていた街の光も、一気に闇へと移り変わる。