茉莉花の花嫁
「――愚か者が…」

地の底から聞こえたのかと思うくらいの、低い声だった。

「えっ?」

「人を身分や金でしか判断できない愚か者が…。

年寄りにも子供にも女性にも優しくできない愚か者が…」

その声の主は老人だと言うことに気づいた。

「えっ?」

清瀬が声を出したその瞬間、老人は姿を変えて行った。

「えっ、なっ…!?」

ボロボロで汚れていた服はどこかへ消えて、老人の頭に2本の角が生えてきた。

顔立ちも変わり、口から出ているキラリとした2本のそれが牙だと気づいたのはすぐのことだった。

「あっ、あっ…」

ドアを押さえていたその手は黒く、鋭い爪があった。

金色の目がギロリと、自分をにらみつけた。

目の前にいるのは、老人じゃなかった。

黒い大きな躰をしている、2本の角が生えた鬼だった。
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