結婚から始めましょう。
「やっぱり、断ろうと思う」

そう言うと思ってた。彼の気持ちは、とっくに決まっていたと思う。

「そう。蓮さんが決めたことなら賛成するし、応援するよ」

「驚かないの?」

そう言う蓮の方が驚いた顔をしていて、思わずくすりと笑った。

「なんとなくそう言うんじゃないかなって思ってた。カサブランカを離れたくないんでしょ?」

「……はあ……桃香には敵わないな」

ご両親を尊敬して、理想の夫婦だとまで言う蓮のこと。陽子の残した会社を自分が守っていきたいと思うのは、当然のことだろう。

「僕は正直、親族の中での立場なんてどうでもいいんだ。ただ、僕をよく思わない人達の目が、桃香や将来生まれてくる子どもに向くのが嫌だった。守るって桃香に言ったのに、今回は守りきれなかったし……」

苦しそうに顔を歪める蓮。そんな顔を見ていると、たまらなくなって思わず抱き付いていた。

「でも、カサブランカを選んだのは、親族の目を気にしたからじゃない。好きなんだ。母の残したあの会社が。
桃香が応援してくれるって言うなら、僕はこのままカサブランカを守っていきたい」

「もちろん応援してる。陽子さんも喜んでくれるね」

「ありがとう。あと……やっぱり桃香と過ごす時間が減るのは嫌なんだ」

少しだけ小声になる蓮が、可愛くて愛しくて仕方がない。

「私もだよ」

抱きつく私に、蓮は優しくキスをした。










< 128 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop