結婚から始めましょう。
華子が待つ未来アートまでの数十分の道中は、自己紹介を兼ねてお互いの話をした。

蓮は一人息子で、ご両親は健在ではあるものの、退職後の生活を謳歌しているようで、たまに息子ですら所在がわからなくなるという。

お母様は秋葉の家に対してさほど執着がないようで、昔から自由な人らしい。
高校教師をしていたお父様が定年を迎えた際、お母様も合わせて退職されて以来、仲の良いお2人は国内外を行き来して、自由に暮らしているのだという。

「もう少し落ち着いた生活をして欲しいと思うんですけどね。用のある時に捕まえるのが大変で」

若干迷惑そうに話すのがおかしくて、くすくす笑ってしまった。

「お仕事を頑張ってこられたご褒美なんでしょうね。仲良しご夫婦でいいですね」

「私の憧れなんですよ。ああいう夫婦が。気恥ずかしくて、そんなこと本人たちには言わないですけど」

蓮の語るエピソード一つ一つに、彼の優しさや誠実さを感じる。
立ち居振る舞いは社長の風格を感じさせるのに、語られる話は気取ったところがなくて、その隣ですっかり緊張も解れていた。

ただ、ご両親のことを語る蓮は、とにかく優しい口調で温かい目をするのに、他の親族や秋葉グループの話に触れそうになると、雰囲気が変わることに少しだけ引っかかりを覚えた。







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