結婚から始めましょう。
蓮に手を引かれるまま、店内に足を踏み入れた。
気後れしそうな雰囲気の中、さすが蓮は堂々としている。

店員に婚約指輪を見たい旨を伝えると、個室に案内され、いくつかの指輪を出してもらった。どれも値札はついていない。

私の知る限り、ここの商品はちょっとした車が買える価格なはず。それが婚約指輪となると、想像もつかないほどだ。

「桃香さん、どれがいいですか?」

蓮が期待するような目で見てくる。
本当に選んでもよいのだろうか。なんだか怖くなってくるけど、選ばないと彼の立場もない。
もうここは腹を括るしかない。

「どれも素敵なんですけど……これが……」

指さしたのは、この中ではダイヤモンドが一番小ぶりなものだ。ピンクゴールドのリングが可愛くて、デザインとしても一番気になったもの。

「この色、桃香さんのイメージにぴったりだ」

蓮も気に入ってくれたようでホッとする。彼の希望でメッセージを入れることになり、手続きを済ませると店を後にした。怖くて値段は知らないままだ。


「桃香さん、疲れてませんか?少し休みましょう」

この申し出はありがたい。それほど長い滞在時間ではなかったものの、精神的にはもうくたくただった。



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