結婚から始めましょう。
「基本的に、私はこういう口調なんですけど、以前紘に言われたんです。自分にぐらい友人らしい口調で話すようにって。
しばらく特訓のようなことをさせられたんですよ。あの時、私の言葉がだんだんおかしくなってしまって、散々からかわれました」

さすが御曹司といったところだろうか。ずっと誰に対してもこの口調だったとは……
そういえば顔合わせの時、ご両親に対してもこの口調だったと思い出した。

「少しだけ、羨ましかったです」

「え?」

し、しまった。何を言ってるのよ、私。

「桃香さん?」

蓮が正面からしっかりと目を合わせてくる。これは、話すまで逃さないといったところなのだろう。

「蓮さんと紘さんの仲が、口調一つでさらに親密に見えて、その……羨ましかったです」

だんだ小声になってしまったものの、なんとか思いは伝えた。恥ずかしさから、私の視線は足元を彷徨ってるけど。

「……確かに、そうですね。いや、そうだね。僕の口調では、親密になるにはよそよそし過ぎる」

あっ、〝私〟が〝僕〟に変わった。

「桃香さんに対しても、こういう口調で話してもいいかな?」

すこしだけ照れ臭そうに話す蓮がなんだか可愛くて、「はい」と即答した。
むしろ砕けた口調でって、私からお願いしたいぐらいだ。

「桃香さんもだよ。敬語はなしだ」

「は……あっ、うん」

思わず2人で笑い合う。一層距離が近付いたのを感じられて、なんだか幸せな気分になった。



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