結婚から始めましょう。
「でも、純也さんちらっと私の指輪に目を向けてたよ。絶対に私が既婚者だって思ってる。自分より若いけど、既婚者なら任せても大丈夫かとか思われてるよ……なんだか、騙してるみたい」

「あら。役に立ってるのね、それ」

華子が意味ありげに私の手をちらりと見る。

これはこの会社に就職した時、華子からお祝いに贈られたものだ。はめる場所指定で。「これをはめておけば仕事になるからね」なんて言葉と共に。

どう見ても結婚指輪……

「もしかして任せても大丈夫じゃなくて、〝桃ちゃんを紹介して欲しかったけど既婚者か、残念〟っていう視線だったかもよ」

「そんなわけないよ」

いつもながらわけがわからないことを言う華子は、呆れ顔の私をくすくす笑っている。

「じゃあさあ、桃ちゃん。その指輪をダミーじゃなくしちゃえばいいのよ」

「は?」

ますますわけがわからず、助けを求めて社員の顔を見回す。

それなのに、3人とも笑顔で頷いているのはなぜ?

「もう、わからない?本当に結婚しちゃえばいいのよ」

「えぇぇぇ!!」

ないないない。
相手もいないのに結婚だなんて。

楽しそうに笑うお姉様方の間をすり抜けて、ふらふらっと自分の席に向かう。プツリと電池が切れたかのように、脱力して座った。

「あら、本気なのにね」 

だめだ。完全に遊ばれてる。
さっさと資料をまとめて帰ろう。

お姉様方の笑い声を無視して、さっき面談した純也とのやり取りを記録していった。







「お疲れさまでした」

定時を過ぎた頃、まだ残っているメンバーに挨拶をして、事務所を出た。



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