隠し事はサヨナラの種【完】
真実は?
私たちが付き合い始めて、1年ほど経った頃、仕事帰りに女性の2人連れに声を掛けられた。
「天野 光さんね? 私、篠宮と申します。篠宮 悠飛の母です。少し、お時間いただけないかしら」
50代くらいだと思われるその女性は、言われてみれば、なるほど、目元が悠飛に似ている。もう1人は、私と同世代くらいの若い女性。あまり似てないけど、妹さんかな?
私は、悠飛のお母さんの誘いを断ることも出来ず、誘われるまま近くのカフェに入った。
「お忙しいでしょうから、早速、本題に入りましょ。光さんは、悠飛と付き合ってらっしゃるのよね?」
「はい」
本題って何?
疑問に思いながらも、私は素直にうなずいた。
「では、篠宮の家柄については、ご存知?」
家柄って……
分からないまま、私は首を横に振る。
「やっぱり。光さんのお父様は、町役場にお勤めとか。ごく普通のお嬢さんでいらっしゃるのよね? うちは、代々、銀行を営んでいる家系ですの。悠飛もいずれ、戻ってきて継いでもらう予定なんですよ」
嘘⁉︎ 聞いてない!
悠飛、会社辞めちゃうの?
「それでね、こちら、久我 紘子さん。昔の公家お家柄でね、悠飛の許婚ですの」
「えっ⁉︎」
黙って聞いてた私だけど、思わず、声が出た。
「やはりご存知なかったのね。それはもう、幼少期から親交を深めてきた間柄でね、よくある、親が決めた顔も知らない婚約者とは違いますのよ」
「そんなはず……」
だって、悠飛は、そんなこと一言も……
「久我さんは、証券会社を営んでらっしゃるから、家柄的にもこれ以上ない良縁ですし、本人たちも気の置けない間柄ですから、それは、傍目にも似合いの2人ですのよ」
だったら、何で悠飛は私と付き合ってるの?
何で、今まで何も言わなかったの?
「悠飛とは、30歳までは、仕事も人間関係も自由にしていい代わりに、30になったら、家に戻ると約束をしています。そして、あなたもご存知のように、あの子は、来月、30になります。すでに今月末で退職の手続きが済んでいることは、ご存知かしら?」
嘘⁉︎
聞いてない。
「その様子だと、ご存知ないようね。こういう話は、突然しても、なかなか受け入れ難いものがあるでしょうから、早めに…と悠飛にも何度も言ったんですけど、なかなか自分では言えないようなので、参りましたの。こちら、お納めいただけるかしら」
お母さんは、白い封筒を1通差し出した。
「悠飛がお世話になったお礼です。それから、こちらで引越し業者を手配しておきました。今月末、ご実家へお帰りください。会社の方へは、すでに話を通してありますので、ご安心くださいね」
「えっ⁉︎」
私は思わず、耳を疑う。
「あなた達が勤めてる会社のメインバンクは、うちですからね。その程度の融通は利きます。まぁ、すぐに納得はできないでしょうから、悠飛が戻ったら、聞いてみるといいわ。では、ご機嫌よう」
呆然とする私を残して、お母さんと久我さんは、スッと立ち上がり去っていく。
残された私は、しばらく動けなかった。
どれくらいの時間が経ったのだろう。我に返ると、机の上には、例の白い封筒が置かれたまま。
しまった。
映画やドラマみたいに突き返せば良かったのに、その程度の知恵すら回らなかった。
悠飛に電話して問い詰める?
ううん、それはダメ。
大事なことは、面と向かって話さないと。
もし、今回の話が、嘘だったら、この封筒は、悠飛から返して貰えばいい。
私は、その封筒を手に、とぼとぼと帰路に就いた。
「天野 光さんね? 私、篠宮と申します。篠宮 悠飛の母です。少し、お時間いただけないかしら」
50代くらいだと思われるその女性は、言われてみれば、なるほど、目元が悠飛に似ている。もう1人は、私と同世代くらいの若い女性。あまり似てないけど、妹さんかな?
私は、悠飛のお母さんの誘いを断ることも出来ず、誘われるまま近くのカフェに入った。
「お忙しいでしょうから、早速、本題に入りましょ。光さんは、悠飛と付き合ってらっしゃるのよね?」
「はい」
本題って何?
疑問に思いながらも、私は素直にうなずいた。
「では、篠宮の家柄については、ご存知?」
家柄って……
分からないまま、私は首を横に振る。
「やっぱり。光さんのお父様は、町役場にお勤めとか。ごく普通のお嬢さんでいらっしゃるのよね? うちは、代々、銀行を営んでいる家系ですの。悠飛もいずれ、戻ってきて継いでもらう予定なんですよ」
嘘⁉︎ 聞いてない!
悠飛、会社辞めちゃうの?
「それでね、こちら、久我 紘子さん。昔の公家お家柄でね、悠飛の許婚ですの」
「えっ⁉︎」
黙って聞いてた私だけど、思わず、声が出た。
「やはりご存知なかったのね。それはもう、幼少期から親交を深めてきた間柄でね、よくある、親が決めた顔も知らない婚約者とは違いますのよ」
「そんなはず……」
だって、悠飛は、そんなこと一言も……
「久我さんは、証券会社を営んでらっしゃるから、家柄的にもこれ以上ない良縁ですし、本人たちも気の置けない間柄ですから、それは、傍目にも似合いの2人ですのよ」
だったら、何で悠飛は私と付き合ってるの?
何で、今まで何も言わなかったの?
「悠飛とは、30歳までは、仕事も人間関係も自由にしていい代わりに、30になったら、家に戻ると約束をしています。そして、あなたもご存知のように、あの子は、来月、30になります。すでに今月末で退職の手続きが済んでいることは、ご存知かしら?」
嘘⁉︎
聞いてない。
「その様子だと、ご存知ないようね。こういう話は、突然しても、なかなか受け入れ難いものがあるでしょうから、早めに…と悠飛にも何度も言ったんですけど、なかなか自分では言えないようなので、参りましたの。こちら、お納めいただけるかしら」
お母さんは、白い封筒を1通差し出した。
「悠飛がお世話になったお礼です。それから、こちらで引越し業者を手配しておきました。今月末、ご実家へお帰りください。会社の方へは、すでに話を通してありますので、ご安心くださいね」
「えっ⁉︎」
私は思わず、耳を疑う。
「あなた達が勤めてる会社のメインバンクは、うちですからね。その程度の融通は利きます。まぁ、すぐに納得はできないでしょうから、悠飛が戻ったら、聞いてみるといいわ。では、ご機嫌よう」
呆然とする私を残して、お母さんと久我さんは、スッと立ち上がり去っていく。
残された私は、しばらく動けなかった。
どれくらいの時間が経ったのだろう。我に返ると、机の上には、例の白い封筒が置かれたまま。
しまった。
映画やドラマみたいに突き返せば良かったのに、その程度の知恵すら回らなかった。
悠飛に電話して問い詰める?
ううん、それはダメ。
大事なことは、面と向かって話さないと。
もし、今回の話が、嘘だったら、この封筒は、悠飛から返して貰えばいい。
私は、その封筒を手に、とぼとぼと帰路に就いた。