触らないでよ!〜彼氏に振られたその日、女の子(?)に告白されました〜
振られました。
「あのさ、やっぱり俺無理だわ」



映画館の前。

伸びてきた手を何気なくはたいたら、隣の彼氏が立ち止まってこう言った。



「セックスが怖いって言うのは100歩譲って理解するけどさ、」



……公衆の面前で、セックスって言うな。

驚いて周りを見る。
でもそんな私たちの間に流れる空気に、誰も気づいていないようだった。



「手ぇ繋ぐのが嫌ってなんなの?」



イライラしたような口調と表情。



ーーあぁ、終わったな。
何度か経験してきてわかる。

またか。



「別れよう」



最後は目すら合わない。
私の返事も聞かないまま、顔を伏せて去っていく。
休日の人混みの中で、彼の姿はあっという間に消えてしまった。


ーー映画観るって言ってたじゃない。バカ。








「ということが、今日の昼にありまして」



泣き崩れた振りをしながら、カクテルグラスに入った水色の液体を煽る。



「あいつ、手ぇ繋がないからって言ってたけど、絶対ウソだね!」



たちの悪い酔っぱらいのごとくグラスの底をカウンターに叩きつける。
一瞬、割れないかハラハラしたけどそんなことはなかった。



「なんでそんなに触られるのが嫌なのかしらね?」



チーズの盛り合わせが入った皿をカウンター越しに手渡すサラサさん。

彼女が動くたびにギラギラした華美なドレスが、店内の照明に反射して目に染みる。



「なんでって、だって急に触られるとゾワゾワするんだもん。気持ち悪い……」

「あら、彼氏が気の毒。あ、元だったわね、モトカレだもんね」


ふふんと笑ってサラサさんがタバコに火をつけた。

ーー所詮、この人も元彼側か。



誰か、私のことを理解してくれる人はいないのか。

誰か。


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