触らないでよ!〜彼氏に振られたその日、女の子(?)に告白されました〜
「澪ちゃんもあまり料理しないの?」

「うん、ご飯は学食で食べるから」



開けられていないミネラルウォーターを手渡される。

澪ちゃんは海外メーカーの缶ビールを片手に換気扇の下へ移動する。



「あぁ、そっか、そういうのいいね」

「ミカさんも来ればいいよ、美味しいよ、うちの学食」

「学生じゃなくても使っていいの?」

「うん」



金属音を鳴らしてタバコに火をつける。
普通のライターじゃなく、ジッポーを持っていることも初めて知った。

お酒を飲むと澪ちゃんはくだけた口調になる。

普段の澪ちゃんも好きだけど、こっちの澪ちゃんのほうが距離が近くなった気がしていつの間にか好きになった。



「なんか澪ちゃんが男の人に見える」



澪ちゃんが目を見開いた。
口走ってから失礼なことを言ってしまったと気づく。



「……ごめん」

「ミカさんにとって、どっちがいいんだろうね」

「え……」



目を伏せて澪ちゃんが笑って。

タバコの灰を落としながら続ける。

「触れる私と、将来を考えられる私」。

澪ちゃんはきっと、あのとき駅で言った私の言葉を思い出している。
漠然と結婚願望が高かったときの私。



「どっちも愛せる自信あるよ……」



ーー虚勢だ。

今度こそ傷つけたかもしれない。
澪ちゃんが男だったらいいのにと思っていたことも確かにあった。でも今はそれほど思わない。澪ちゃんは澪ちゃんのままでいい。

私も、男女関係なく澪ちゃん以外の人に触るなんて、できそうもないし考えたくもない。



「ほんとかよ」



乾いた笑いを張り付けたいつもと違う口調に、言葉が出なくなる。

目の前の澪ちゃんが、澪ちゃんに見えなくなる。
知らない男の人に、見える。
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