触らないでよ!〜彼氏に振られたその日、女の子(?)に告白されました〜
その日の帰りも珍しく早坂と一緒になった。



「なに?」

「……いや」



なにか言いたそうにこちらを見るけど、茜ちゃんも一緒だからか目をそらされて一向に話そうとしない。

なんだか居心地が悪い。


エレベーターが1階に着くと、早々に早坂が出ていった。



「……なんですか、あれ。ミカさん、早坂さんと何かありました?」



エントランスを抜けようとする早坂の背中を見ながら茜ちゃんが問いかける。



「え、わかんない。何もないはず……」



あの夜、早坂と須賀さんに見られたことは、茜ちゃんには言わなかった。

早坂とはすでに話が終わって関係は終了しているはずだし、この前話をしたときだって特に変な雰囲気にはならなかった。
むしろ円満な別れ方だったと思う。





私達も遅れてエントランスを出る。

外はすっかり日が沈んで、ビルの明かりと車のライトが眩しい。



「今日ずっと思ってたんですけど、」



茜ちゃんが思い出したように言った。



「早坂さん、会社に戻ってくる度にミカさんのこと見てましたよ。

2人きりにしちゃ危ない感じしたんで、こうして私がくっついてるんですけど。
もしかして、また話をする約束してました?」

「してない……、話し合いも終わったはずだし」

「家にまで来たりして」



考えを巡らせていると茜ちゃんがサラリと怖いことを言い出した。

実際、きちんと話をした日も家まで来たからシャレにならない。



「やめて、ほんとに……」

「……澪ちゃんのところ行けばいいじゃないですか、今日も仕事なんですか?」

「うん」



澪ちゃんが休みなのは明日だ。

茜ちゃんに言われて、直前までSARASAに行くことを迷った。
そうしたら今度は、店に来ているんじゃないかという不安さえ出てきて、結局、家の最寄り駅まで電車に乗った。

ここまで暗い夜道が怖いと思ったのは引っ越してきてから初めてだ。

早坂が夜に押しかけるような、そういうことをしないのはわかっていても。
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