触らないでよ!〜彼氏に振られたその日、女の子(?)に告白されました〜
「もー、先輩、自分の分は金払ってってよ」



会社に隣接するカフェから澪ちゃんが出てきた。
手にはテイクアウトしたのかカップを持っている。



「ミカさん、お疲れ様!」



目が合って、澪ちゃんの顔がぱぁっと明るくなる。
腰にまとわりつく小型犬と尻尾を全力で振る大型犬……。



電話に出た茜ちゃんに、エントランスに舞さんが来ていることを告げる。
「えっ」と短い返事の後、電話の向こうでガタガタと忙しない音が聞こえた。



「すぐ来ると思います」

「おー、ありがとうな」

「じゃあ、俺らは帰るから」

「茜ちゃんのこと待ってなくていいの?」

「なんで、俺はミカさんを迎えに来たのに」



澪ちゃんが持っていたカップを舞さんに押し付けるように預けた。

どこか機嫌が悪い気がして、顔を覗き込む。目が合うと、へにゃっと目尻が下がった。




茜ちゃんが来る前に舞さんと別れて会社を出た。

今日は歩いて帰るようだ。

運転しているときの澪ちゃんも格好良くてみとれてしまうけど、時間をかけて一緒に歩くのもたくさん話ができるから嬉しい。



「さっき澪ちゃん、怒ってた?」

「え、なにが?」

「茜ちゃんのこと待たないで帰るって言ってたから。結構待たせちゃった?」



私の言葉に首を傾げる。

そして思い出したように笑った。



「あー、たぶん俺ミカさん以外だといつもあんな感じで喋ってるかも」

「そうなの?」

「うん、だって興味ないし」



ばっさりと斬り捨てる。

澪ちゃんがこんなにドライだとは知らなかった。

接客中はお客さんに告白されるくらい愛想がいいし、私に対してもどちらかというと甘えてくるような感じなのに。

嬉しいけど、愛想尽かされたらあんな態度を取られるのかと思うと少し悲しい。

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