エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
お母さんが「ここにしましょう」と入ったのは、駅近くにあるラグジュアリーホテルだった。
たしか五つ星だった気がする……と恐縮しながらついていくと、エレベーターに乗ったお母さんは〝36〟の数字を押してから、私に視線を移しニコニコと笑う。
「ここね、よく来るんだけどとってもおいしいのよー。景色もいいから気に入ってるの。いつか鈴奈ちゃんとこられたらとは思ってたけど、まさかこんな早く実現するなんて思わなかったから嬉しいわ」
〝恐縮です〟と咄嗟に答えそうになってから、そんな仕事モードの返答はダメだと止める。
あくまでも普通に接しなければ……とおろおろしていてお母さんの服に目が留まった。
黒いニットに白のパンツを合わせ、上には見るからに高そうなスモーキーブルーのコートを着ている。首元には鮮やかなボタニカル柄のスカーフ。
ショートの髪はふわりとウェーブを描いていて、誰から見ても淑女そのものだった。
一方の私は……と視線を動かし、焦る。
白のブラウスにジーンズ、キャメルブラウンのコートというコーデは朝特になにも考えずに手にとったものだ。
黒のパンプスはかろうじてヒールではあるものの、全体を通してこんなホテルでは場違いに感じた。
私を連れていたらお母さんが恥ずかしい思いをしないだろうかと心配になる。
「すみません、私こんな素敵なホテル入るの初めてで……あの、私はこんな格好でも大丈夫でしょうか?」
不安になって聞くと、お母さんは私の格好を見てからやっぱりニコニコと笑った。