エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
今まで私の中にはなかった感情がぶわっと溢れるから、電車の中だというのに顔をおおってしゃがみこみたくなった。
嬉しい……のかな。うん。恥ずかしさはあるけれど、この感情は〝嬉しい〟に一番近い。
これまで色々な感情を抱いてきた。
でも、こんなに浮かれてしまうようなぽわんとしたあたたかいものは初めてだ。
ガタガタという電車の振動がまったく気にならない。四宮さんのことを考えるだけで、明るくおおらかな気持ちになれる。
恋愛経験のない自分も、そういった類の感情を持ったことがないことも、恥ずかしいと思ったことはなかった。
恋をしたいと焦ったことすらなかった。
恋人のいる友達の話を聞けば、楽しそうだなという感想は浮かんでもそれ以上はなかったし、高校卒業してすぐに就職したため、それからはとにかく仕事を覚えるのと生活をするのに必死で他に目を向ける暇もなかった。
でも、みんな仕事をしながらも恋愛をして結婚までしているのだから私が特別不器用だったのかもしれないし……無意識に、誰かを自分のテリトリーに入れることを拒んでいたのかもしれない。
けれど四宮さんは、始まり方があんなだったからという理由があるとしても、すんなりと私の中に入ってきた。
四宮さんという存在がストンと私の心の中に落ちたし、私の中に居場所を作った彼を私も違和感も嫌悪感もなにもなく受け入れていた。
どこにも無理はなく自然だった。
それがとても嬉しくて、恋をしている自分に顔が勝手に緩む。
電車の中でひとりでにやけているのはどう考えても不審者なので、口元に力を入れて真顔を保っていた時。
ふと、いつかの塚田さんの声が頭に浮かんだ。