エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
翌日、仕事を終え電車を降りると携帯にメッセージが届いた。
〝今日、四宮もくるって。夕飯、適当に買ってきてくれるって言うから準備とかは大丈夫だってさ〟
送信者は氷室さん。
トークルームに表示されている文字を凝視しながら、どうしよう……と目を泳がせる。
四宮さんが次に天川支店に来るのは三日後の日曜日の予定だった。だから、私はそれまでに自分の気持ちをどうにか落ち着かせようとしていたのに、こんな急は困る。
まさか昨日の今日で顔を合わせるなんて思ってもみなかった。
きっと四宮さんは昨日の出来事についてなにも疑問は抱いていない。
あの後、メッセージで失礼な態度については謝ったし、四宮さんからも〝気にしないでいい〟と返信があったから。
だから私もなんでもない顔でいればいいのだろうけれど……なにせ初めてのやきもち体験だ。器用に気持ちが切り替えられる自信はない。
せっかくの申し出を断るのは申し訳ないと思いつつも、少し頭痛がするからと夕飯は断ることにした。
マンションの壁は薄いわけではないけれど、防音というわけでもない。大きな物音を立てれば聞こえてしまうため、部屋に入ってからは慎重に過ごした。
壁を隔てているというのに、隣に四宮さんがいると思うと気が気でない。
今頃、氷室さんとふたりでダイニングテーブルを挟んで話しているのだろうかと、その姿を想像するだけで胸の奥がキュッと縮こまるので、慌てて頭の中の妄想をかき消した。
勝手に思い描いてときめいているなんて、こんなの――。