エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
電話越しの声は本人の声ではなく、幾パターンもあるうちから一番似ている音で再現され聞こえているという話をよく耳にする。
だからこれは四宮さんの声ではないんだと思い込んで自分を落ち着かせようとしたけれど、携帯から直接耳に聞こえてくる声は紛れもなく彼のものだとしか思えなくて、胸は苦しくなるばかりだった。
私にだけ話してくれている感じが強く、直接話すよりも距離が近く思えた。
トクトクと鼓動がはしゃいでいるように跳ねる。
『調子は大丈夫か?』
「あ、はい。本当に軽い頭痛なので……せっかく四宮さんが用意してくれたのに、すみません」
『気にしなくていい。それより、なにか食べられたか? プリンを買ってきたから、食べられそうなら持って行くが』
心配してくれる声に、申し訳なさを感じながら「大丈夫です」と答える。
「もう軽く食べましたし、早めに寝ようと思っていたところなので……でも、ありがとうございます」
『そうか。なら、賞味期限はまだ先だし、氷室の部屋の冷蔵庫に入れておくから気が向いたら食べるといい。じゃあ、お大事にな』
最後『おやすみ』と言う言葉で電話が終わる。
通話が切れ、ツー……ツー……という機械音が繰り返し聞こえていたけれど、いつまでも四宮さんの声が耳に残ったまま離れてくれず、携帯を持つ手にギュッと力がこもった。
ただの電話を受けただけでドキドキする自分が、今後四宮さんと直接顔を合わせたらどうなるのかを考えると恐ろしかった。