エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
恋を知らなかった私は、その友達を〝嬉しそうだなぁ〟と思いながら見ていたけれど、今ならわかる。
好きな人が視界に映るだけで、どれだけ気持ちが満たされるかが。
ずっと見ていたい……とは思うのの、それでは怪しい人だしそれに四宮さんだって後から知ったとき不快に思う。
でも、だからと言って私が起こしていいものかを悩み始めた時だった。
「……かすみ」
「……え?」
掠れた声が聞こえた。
〝かすみ〟と呟いた四宮さんの口が再びわずかに動く。
「ゆ、り……」
それだけ言い、口を閉じた四宮さんは静かな寝息を立てる。また深い眠りについたようだった。
〝かすみ〟〝ゆり〟
それは誰が聞いても女性の名前で、心臓がそれまでとは違う理由でドクドクと騒いでいた。
四宮さんと私の共通の知り合いにその名前を持つ女性はいないけれど、四宮さんが下の名前で呼ぶということは親しい仲だと想像がつく。
誰だろう……と気になるのに、その答えは絶対に私の中にはないので焦燥感だけが残る結果となった。
友人、昔の恋人、親族……今、親しくしている女性。
名前の響きから、清楚な女性像が浮かび気持ちにもやがかかる。
今、四宮さんは〝かすみ〟さんや〝ゆり〟さんと夢の中で会っているんだろうか。
四宮さんが夢にまで見る女性は、いったいどんな素敵な人なんだろう。