エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
「見て見て。鈴奈ちゃん。これ、次に出す予定の車なんだけどね、主に女性を意識したデザインなんだって。フロントからサイドにかけてのここのカーブとか、今までにないデザインでかわいいよねぇ。洗練されてるっていうか。なのに、四駆展開があるっていうのがギャップ萌えでなんとタイヤのサイズは――」
氷室さんと日用品の買い出しに行ってから四日が経った日曜日。
来年発売予定の新車の仮のパンフレットを見ながら、浅尾さんがわくわくした様子で説明する。
休憩室にはふたりきり。浅尾さんなら四宮さんのことを色々知っているかもしれない……と思うものの、唇が縫い合わされたみたいに開かなかった。
もしも氷室さんと同じようなことを言われたら、と考えると怖いというのが一番だった。だって浅尾さんにまでそんなことを言われてしまったら、本当の本当になってしまう。
いくら私生活がだらしなくても嘘だけはつかない氷室さんがああ言った時点で、もうそうなのに、往生際悪く未だ違うかもしれない可能性を探し続けている自分にはため息が落ちるばかりだった。
諦めが悪い。
けれど……四宮さんと過ごした時間の中でもらった優しさや嬉しさ、ときめき。それ全部を簡単には諦められなかった。